第31話

 新島春香は物凄い勢いでパンケーキを平らげていったが、3分の2を過ぎたところで、そのペースがガクッと落ちた。


(ウプッ、さすがに限界…)


 弱味を顔色には出さないが、厳しい状況に追い込まれた。ナイフとフォークを皿に置き、ホットコーヒーでひと息つく。


 そのとき真向かいから、同じようにお皿に食器を置く音が聞こえてきた。続いてルーの声が響く。


「はー美味しかったです。ごちそーさまでした」


「!?」


 新島春香は目を見張った。自分よりも体格の小さなルーがいとも簡単に平らげたのだ。


 頼もしい反面、負けず嫌いが発動する。


 コチラにも弱味は見せられない。しかし限界なのもまた事実…


 そこで新島春香は余裕の笑顔を見せた。


「ルー、良かったら私のも食べる?」


「え…いいんですか?」


 ルーが不思議そうな顔をした。


「だって何だか、物足りなそーだし…」


「そーですね…美味しかったので、確かにもう少し食べたい気持ちはあります」


 そう言ってルーは、パンケーキと新島春香の顔を交互に見た。


「でも、ホントにいーんですか?」


「うんいいよ、私はもう充分に味わったから」


 言いながら新島春香は、パンケーキのお皿をルーの方に近付ける。


「ではお言葉に甘えて、いただきます」


 ルーは嬉しそうに微笑むと、再びナイフとフォークを手に持った。


   ~~~


「ちょっとトイレ行って来る」


 そう言って新島恵太が席を立ったとき、新島春香は真中聡子の真正面に座り直した。


 それからホットコーヒーに口を付けていた真中聡子を真っ直ぐに見据える。


「真中さん、ちょっといいですか?」


「え…あ、はい」


 真中聡子は、少し怯えたように応えた。


「ぶっちゃけ、恵太のコトをどー思ってるんですか?」


「えっ!?」


 真中聡子が目を見張った。それから少し顔を赤らめながら目線を逸らす。


「どーって、どういう意味?」


「私の恋敵ライバルになるのか?ってコトです」


「恋敵…って、あなた妹さんでしょ?」


 真中聡子は驚いたように、再び新島春香の方に顔を向けた。


「それが何か?」


 新島春香は真中聡子の視線を、目を逸らさずに真っ直ぐ受け止める。


 真中聡子は暫く沈黙していたが、スッとルーの方に視線を移した。


「リースさんは驚かないのね?」


「…真中さんのご想像どーりですよ」


 ルーはニッコリと微笑んだ。


「そう…」


 真中聡子はゆっくりと顔を伏せた。それから勢いよく顔を上げる。


「恵太くん、お願いがあるの!」


「え…け、恵太…くん!?」


 そのときちょうど戻ってきた新島恵太は、いきなり名前を呼ばれたことに気が動転した。


「これから私のことは聡子って呼んでほしい」


 真中聡子は新島恵太を真っ直ぐに見つめる。


「え…ええ!?」


 新島恵太は何が何やら分からずに、只々困惑しているだけだ。それでも真中聡子は言葉を続けた。


「勿論、教室でもだよっ!」


上等じょーとー!!」


 新島春香は「ハハッ」と声に出して笑った。それから新島恵太の腕を引っ張って、強引に自分の横に座らせる。


「お、おいっ、春香!?」


「恵太、私たちも聡子と友達になったから、聡子と会うときは私も呼んでね」


「呼ぶ訳ないでしょ?馬鹿なの?」


 真中聡子が呆れたような顔をする。


「いいえ、私たちは皆んなで仲良くやっていけますよ。絶対の自信がありますっ!」


 ルーは新島春香と真中聡子の言い争う姿を見て、とても懐かしそうに笑った。


「な…何なんだ、一体?」


 新島恵太はそう呟くので精一杯であった。

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