第30話

「アタシー?アタシはミサ、闇鎌デスサイズのミサだよ!」


 ミサは妖しい外見とは裏腹に、意外とチャーミングに笑った。それから持っている大鎌を、再びクルリと一回転させる。


 するとミサの背後にあった結界が斬り裂かれ、中からシャドーパンサーが解放される。


「え…!?」


 新島春香は絶句した。


 オークジェネラルの攻撃にも、シャドーパンサーの攻撃にもひたすら耐えた結界が、いとも簡単に斬り裂かれたのだ。


 無意識的に持っていた結界に対する安心感が、一瞬で崩れ去る。


 新島春香は思わず後退りした。


「あー大丈夫ダイジョーブ。さっき、今日のところは終わりだって言ったでしょ?」


 ミサは新島春香の気後れに気付くと、カラカラと愉しそーに笑う。


 そしてその言葉を裏付けるように、シャドーパンサーがミサの背後で伏せるように座り込んだ。


 ミサはシャドーパンサーの背中に横乗りで腰掛けると、右足を上に足を組んだ。


 色々なトコロがキワどくて、コッチまで恥ずかしくなってくる。


「今日は終わりって、どーいうコトですか?」


 ルーが白銀弓を構えたまま声を張り上げた。いつでも弦を引ける準備は出来ていた。


「だって、急いでるんでしょ?」


 ミサは新島春香を見つめながらクスクスと笑う。


星夜珈琲ほしよコーヒーだよ」


「……そこにいるのね?」


 新島春香はミサの言葉にピンときた。何故だか分からないが、確信する。


「あそこのパンケーキ、超美味しーんだぁ。早く行かなきゃ食べ終わっちゃうよ」


 それだけ言い残して、ミサを乗せたままシャドーパンサーがトプンと影の中に沈み込んだ。


 気がつくと、辺りの景色に色が戻っていた。


   ~~~


 星夜珈琲ほしよコーヒーは学校近くの国道沿いにある、全国展開もしているチェーン店である。大きな駐車場もあり、いつもたくさんの人が利用している。


「いらっしゃいませー」


 新島春香とルーが店内に入ると、店員がすぐに駆けつけた。


「2名さまですか?」


「あ、友達が先に来てるんです」


 新島春香はニッコリ笑うと、ズンズンと奥に入っていった。


 ルーは焦ったように店員に頭を下げると、新島春香の後を追いかける。


「ハルカさん、店員さん困ってましたよ」


「…見つけたっ!」


 ルーの言葉に耳も貸さずに、新島春香は目的の男女を発見した。そのまま真っ直ぐ突き進む。


 そして、ひとつの席の横で立ち止まった。


   ~~~


 新島恵太は自分たちの席の真横で立ち止まった人物に気付くと、何事かと顔を上げた。


 そしてそのまま硬直する。


 新島春香がそこにいた。


「は…春香、何でここに?」


「パンケーキ食べに来たの。ちょうど良かった、混んでるから相席いいよね?」


 言いながら新島春香は、新島恵太の横に強引に座り込む。


 後から現れたルーに気付いた真中聡子も、観念したかのように、自分の横のスペースを空けた。


「すみません、おじゃまします」


 ルーはペコリとお辞儀すると、空いたスペースに腰掛けた。


 二人の後をついてきていた店員が腰から携帯端末を取り出すと、ニッコリ笑って口を開いた。


「ご注文は前の方とご一緒で?」


「はい」


 新島春香も笑って返す。


「お…おいっ」


「なに?」


 一瞬反論しかけた新島恵太を、新島春香がギロリと睨む。


「い、いや…」


 新島恵太は負けを悟った。おそらくは何を言っても聞いてはもらえない…


「それでは、ご注文をどーぞ」


 新島春香はチラリと机の上を確認した。


 スフレパンケーキのラージサイズにバニラソフトが乗っかっている。人気の商品だ。


 どうやらそれを二人で取り分けていたようだ。


 新島春香は「ちっ!」と舌打ちする。


「この同じのを2個と、私はホットコーヒー」


「私はアイスのカフェオレお願いします」


「同じ…というと、ラージサイズですか?ノーマルサイズもございますが?」


 暗に「本当に食べ切れるのか?」と聞いてくる。


「大丈夫です。よろしくお願いします」


 新島春香は余裕の笑顔で微笑んだ。


「かしこまりました」


 そう言って店員は、笑顔で一礼した。

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