第24話

「ハルカさん、一体何があったんですか?」


 新島春香がロビーの入り口で立ち尽くしていると、不意に背後から呼び掛けられた。


 振り向くと、ルーが息を切らせながら立っていた。


 どうやって来たのか分からないが、驚くほど早い到着である。


 新島春香は内心ジーンときていたが、口に出したのは別の言葉であった。


「早いね…」


「体内の魔力を使って、肉体を強化することは出来ますので」


 ルーは得意げに「フフン」と笑った。


 分かるような分からないような説明に、新島春香は何となく頷いた。それから再び、ロビー内に視線を向ける。


「真中さんが…スゴかった」


「サトコさんが!?」


 ルーが驚きの声をあげる。


 新島春香は目の前で起こったことを、ルーに全て報告した。聞き終えたルーは一度大きく頷くと、新島春香に笑顔を返した。


「とりあえず、ケータお兄ちゃんたちを起こしましょう。今なら上手く誤魔化せるかもしれません」


   ~~~


 身体を揺すられる感覚で、新島恵太はゆっくり目を開いた。


 顔を上げると、覗き込むように様子を伺っていた新島春香とバチっと目が合う。


「あ…春香!?」


 新島恵太は驚いたように上半身を跳ね起こした。そこで初めて、自分が机の上に伏して寝ていたことに気が付いた。


「驚いたよー、トイレから戻ったら二人して寝てるんだもん」


「え……今ボク寝てた…?」


「だから起こしたんじゃない」


 新島春香は「何寝惚けてんのよ」と可愛いく笑う。それから真中聡子の方にも声をかけた。


「あれ…私…?」


 真中聡子もボーッとしながら、夢と現実がゴッチャになったような顔をしている。


 新島恵太と真中聡子は不思議そうな顔で、お互いの事を確認する。それから二人同時に窓の外にも目を向けた。


 何処にも異変はない。


「二人とも、疲れてるんじゃない?」


 新島春香にそう言われ、二人は「そうなのかなー」と声を揃えて呟いた。


「なんか、これからルーも来るみたいだから、私はルーのこと見てるね」


 まだ何となく腑に落ちない二人を残して、新島春香は出入り口に向かう。それからパッと振り返った。


「あ、そーだ、恵太!」


「ん、何だ?」


「私がいないからって、真中さんに変なチョッカイ出したら駄目だからね!」


「だ…出さねーよっ!」


 新島恵太は顔を真っ赤にして、声を張り上げた。


   ~~~


「指輪…ですか?」


「うん、さっき急に光ったの」


 新島春香は襟元の指輪を指先で弄びながら、不思議そうな顔をした。


「そーいえばハルカさんの時も光ってました。ちょっと見せてもらっていいですか?」


「え…うん」


 新島春香はチェーンから指輪を外すと、ルーの手の上にそっと渡す。


「コレ、見てください!」


 興味深そうに観察していたルーが、ビックリしたように新島春香に声をかけた。


 新島春香も覗き込むように顔を近付ける。


 四ツ葉のクローバーの形に並んでいる、ピンクのハート型の宝石のうちの2個が、レッドスピネルのように赤く輝いていた。


「色が変わってる!?初めは絶対、こんなじゃなかった」


「もしかしたら、皆さんのスキルに関係があるのかもしれません…」


 ルーのひと言に、新島春香はハッと閃いた。


「だったら、コレの色が変わったら、ルーも魔法が使えるんじゃない?」


「ん…?」


 新島春香の期待の眼差しを受け、ルーは一瞬首を傾げた。それからポンと両手を打つ。


「あ、違います。もう一人は春日翔さんです」


「なんで急に、あのヤローの名前が出るのよ?」


 新島春香の表情が、目に見えて不機嫌になる。


「それはだって、春日翔さんも一緒に戦った仲間だからです」


 暫くの沈黙…


 それから新島春香の口がみるみる開いていく。


「ええぇーーっっ!!」


 あまりの大きな声に、新島春香とルーは図書館の司書にジロリと凄い剣幕で睨まれた。

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