妖しい占い師
第25話
「リースさん、ちょっといい?」
新島春香がトイレに行った隙に、中野茉理は空いた席に移動し隣のルーに声をかけた。
「はい、いいですよ」
ルーはニッコリ微笑むと、椅子に座ったまま身体を横に向ける。
「ホントのホントに、春香のお兄さんと付き合ってるの?」
突然の発言に、ルーは驚いた顔をした。
そんなルーに中野茉理は探るような視線を向ける。
「どーしてですか?」
ルーの質問返しに、中野茉理は周りをチラリと見回した。今はテスト期間中ということもあり、ルーの周囲に野次馬はいない。
中野茉理はガタッと椅子を寄せると、顔を近付け小声で話す。
「春香が許すとは思えない」
「春香さんの許可が必要なんですか?」
中野茉理の言葉に、ルーは意外そうな声を出した。
「私さ、自分の直感、信じる方なんだよね」
言って中野茉理は、試すように目を細めた。
「あの子はお兄さんのことが好きよ。アナタはそーは思わない?」
「…その質問に、答える必要はありますか?」
ルーは少し、厳しい表情になる。
「ま、今は時間切れだから必要ないよ」
そう言って、中野茉理の表情が不意に和らいだ。
「二人で顔寄せ合って、何かあった?」
そのときトイレから戻った新島春香が、ルーの背後から心配そうに声をかけた。
「私テストやばそーだからさ、リースさんの足を引っ張っとこーと思って」
中野茉理は両手で細い糸を手繰るような素ぶりをすると、少し悪い顔で笑った。
「アンタねー」
新島春香は呆れたように笑うと、中野茉理の脳天に軽くチョップを入れる。中野茉理は「キャン」と悲鳴をあげると可愛いく舌を出した。
「どーせ良い点取るんだから、つまんない真似はやめなさいっ!」
~~~
今日のテストは3時限目で終わったので、お昼前には下校時刻になった。
中野茉理は家に帰ってもお昼ご飯がないため、いつものパン屋に寄り道をする。本日はガッツリカツサンドと烏龍茶、甘いモノも欲しかったのでプリンも購入した。
「ちょっとそこのお嬢さん」
パン屋を出たとこで、中野茉理は突然背後から声をかけられた。
驚いて振り返ると、さっきは気付かなかったけど、電信柱の横に机を広げて占い師が座っていた。
黒い大きな外套を全身に羽織り、フードを目深に被っている。声から察すると女性のようだが、怪しさ満点で近寄り難い。
「急いでますから、すみません」
中野茉理は軽く会釈すると、サッサと立ち去ろうとした。
「お友達のことで悩んでますね?」
続いてかけられた言葉に、中野茉理は前を向いたまま思わず立ち止まる。
「恋愛関係、叶わぬ恋…かしら?」
尚も続いた女性の声に、中野茉理は振り返った。
「テキトーなこと言わないで」
「なら何故アナタは振り返ってくれたのかしら?」
中野茉理は言葉に詰まる。
「お代はアナタの言い値で結構よ。お友達のためにも、聞くだけ聞いてみてはどうかしら?」
女性の優しそうな声が、中野茉理を惹き込んだ。
「言っとくけど、お金払う気なんてないから」
「ええ、結構よ」
机の前に立った中野茉理を見上げて、女性は妖しく「クスリ」と笑った。
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