第22話
「恵太、明日の日曜日どこか出かけよーよ!」
新島春香は焦っていた。
自身が犯した失態とはいえ、真中聡子にリードを許してしまった。
ルーに至っては論外だ。あり得ない力技で、世間の噂を味方に付けてしまった。しかし否定出来る唯一の機会に否定出来なかったのは、若干の自業自得のせいでもある。
新島恵太は夕食のご飯を頬張りながら、妹の提案に驚きで目を丸くした。
「お前なー、月曜からテストだぞ?ボクにそんな余裕がある訳ないだろ?」
「だったら午前中だけでも、お願い!」
新島春香は拝むように、両手の手のひらを合わせて懇願する。
「春香も高校生なんだから、いい加減、お兄ちゃん離れをしてほしいわー」
新島咲子が溜め息混じりに呟いた。
「お母さん、うるさいっっ」
「はいはい」
娘に一喝され、新島咲子は苦笑いする。
「それに明日は、図書館で勉強するから無理」
そう言って、新島恵太はお茶碗に残った最後のご飯をかき込んだ。
「図書館…まさか、真中さんと?」
「真中さん?初めて聞く名前ねー」
新島春香の震える声に、新島咲子が興味深そうに反応した。
「春香の反応から察するに、女の子ね?」
「うっ…」
母親に真っ直ぐに見つめられ、新島恵太は言葉に詰まる。
「もしかして、彼女?」
「ご…ごちそーさまっ!」
新島恵太は顔を真っ赤にすると、食べ終わった食器を洗い場に下げて、一目散に退散した。
「恵太、待ってよ」
新島春香が呼び止めるが、新島恵太はそのまま行ってしまった。
「…で、実際どーなの?」
新島咲子は、やや放心気味の娘に質問する。
「彼女じゃないっ!」
新島春香は声を張り上げると、食器を片付けて去っていった。
「あらあら」
新島咲子は溜め息をつく。
「あの子はいつになったら、お兄ちゃん離れが出来るのかしら?」
~~~
翌朝、新島恵太が出掛ける準備を済ませると、玄関先で新島春香が待ち構えていた。
「私も一緒に行く」
「お前なー…」
「絶対、邪魔しないからっ」
新島春香に真っ直ぐに見つめられ、新島恵太は「はー」と溜め息をついた。
「絶対、邪魔すんなよ」
「うんっ!」
新島春香は笑顔で応えると、新島恵太の左腕を抱き寄せた。
~~~
「平常心…」
新島春香は図書館の化粧室で、鏡に映る自分の姿を見つめながら呟いた。
新島恵太も真中聡子も、いつもどおり普通に勉強に励んでいる。ただいつもと少し違ったのは、二人のその微妙な距離感だ。
少し隙間が空いてるのだ。
お互いが意識をし合っているのが丸分かりになり、余計に新島春香を苛立たせた。
来るんじゃなかったとも思うのだが、これ以上の進展は阻止しなければならない。
自分は新島恵太の妹だ、居るだけで恋愛ムードの妨げになる筈なのだ。
「テストが終わるまでの辛抱よ…」
新島春香はもう一度、鏡の中の自分に言い聞かすと化粧室を後にした。
その瞬間、周りの景色が灰色一色に変わった。
「ウソ…」
新島春香は思わず立ち止まり、呆然となった。
「そーだ、携帯っ!」
咄嗟に思い付いてスマホを取り出すと、急いで受信状況を確認する。
「良かった、電波来てる…」
ホッとするのも束の間、直ぐさま電話帳から呼び出しをかけた。
(お願い、出てっっ)
新島春香はギュッと目を瞑る。
「どーかしましたかー?」
そのとき受話器の向こうから、ルーの呑気な声が聞こえてきた。
「前と一緒なのっ!また隔離されたっ!」
「…ハルカさん、今ドコにいますか!?」
要領を得ない自分の説明に、ルーはしっかりと応えてくれた。新島春香は泣きそうになった。
「図書館…」
突然通話が切れる。画面には圏外の文字が表示されていた。
「あー、もうっ!」
新島春香が吠えた瞬間、ガラスの割れる音が響く。それから何かが崩れる大きな音がした。
「いやーーぁああ!!」
続いて女性の悲鳴が聞こえてくる。
私の他に誰かいるの!?
そう思った瞬間、新島春香の胸元の指輪が激しく輝きだした。
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