第19話

「で、何から聞きたいですか?」


 駅前のコーヒーショップの中で、ルーは新島春香に話を持ちかけた。


 新島春香は一度大きく深呼吸すると、真っ直ぐにルーを見据える。


「私とアンタとあのオンナが恵太の恋人って、どーいうコトよっ!」


「え!?」


 ルーは目を丸くしてキョトンとした。


「一番最初が、それですか?」


「当たり前じゃない!」


 新島春香は声を張り上げる。


「当たり前、ですか…ハルカさんらしいですね」


 ルーは優しく微笑んだ。そして同時に困り果てた。


 それが一番、楽しくて幸せな…そして辛く悲しい物語になるからだ。


 ルーはパチンと両頬を両手で軽く叩くと、一度気合いを入れ直す。


「では単刀直入に言います。ケータお兄ちゃんとは、一緒に暮らした恋人どうしなのです」


「……はあ!?」


 新島春香は目がまん丸になった。


「ちょっ…ちょっと待って、一緒にって?」


「勿論、同棲のことです」


「ふへ!?」


 新島春香の顔が、一瞬で真っ赤に上気した。


「ま…待ってよ、そんな大それたこと…まるで身に覚えがないんだけど?」


「それはそーです。遥かなる異世界『ファーラス』での出来事ですから」


「ファーラス…?」


「私たちが出会った、ココとは違う世界です」


「……」


 新島春香はジト目でルーを観察する。途端に話が胡散臭くなってきた。


「ルーは、その『ファーラス』の人なの?」


「はい」


「それじゃ私も?」


「いえ、ハルカさんたちは地球の人です」


「どーいうコト?」


「ハルカさんたちは、儀式によってファーラスに召喚された『勇者』なんです」


「勇者召喚!?」


 恵太の好きそーな話だ!!とはいえ、胡散臭さが更に増す。


「でも私、全く覚えてないんだけど?」


「それは帰還時に、全ての記憶がリセットされてしまったからです」


「…ご都合つごー主義だなー」


 そのとき新島春香は、どこか小馬鹿にしたような表情をした。ルーはついカッとなってしまった。


「だけど私は、覚えてるんです!!」


 ルーはテーブルをバンと叩いて、声を張り上げた。一瞬店内が静まり返る。


 ルーの泣きそうな表情に、新島春香は息を飲んだ。それから「はー」と大きな溜め息をつく。


「分かった分かった。それでルーは、何で日本に来たのよ?」


「ハルカさんたちの生命を狙う何者かから、その身を護るためです」


「生命を!?な…何でそんなコトに…?」


「魂だけの存在になってもらって、再びハルカさんたちを召喚するためです」


「…ったく、どこまで本気か分からない話ね」


 新島春香は再び溜め息をつく。


「だったらハルカさんが信じざるを得ない話をしましょうか」


 ルーは改まって、声のトーンを落とした。


「な…何よ、急に?」


「ケータお兄ちゃんは最後の瞬間、私たち3人の中からハルカさんを、一番の伴侶として選びました」


「え!?」


 新島春香は思わず頬を赤らめた。


「妹といっても、…でしたけどね」


「!?……アンタ、何処でそれを?」


「ハルカさんご自身が教えてくれたんですよ」


 ルーの返答に、新島春香は言葉を失った。


「次は、絶対に負けません!!」


 ルーの気迫の眼差しに、新島春香は身震いする。


 それから湧き上がるように笑みが零れた。


上等じょーとーじゃない!今回もキッチリと返り討ちにしてやるわよ!」


 新島春香は身を乗り出すと、交錯する視線でバチバチと火花を散らせた。


 そのとき、ルーの視線がフイッと横を向いた。


「あ、ケータお兄ちゃんです」


「え?」


 毒気を抜かれた新島春香も思わず横を向く。すると店の窓の外を新島恵太と真中聡子が歩いていた。


「続きは今度にしましょう」


「な、何でよ?」


「だって、サトコさんに謝るんですよね?」


 ルーは意地悪そうに、ニッコリ微笑んだ。

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