第15話

「で、オッケーしたの?」


 教室に戻り席に着いた新島春香に、中野茉理がニヤケ顔を向けた。


「ううん…断った」


「え、何で?」


「だって、相手のこと…よく知らないし」


「サッカー部の三木先輩だよ?知らないってコトないでしょう?」


「もちろん名前は知ってるけど、それだけだし…」


「とりあえず付き合っちゃえばいーじゃない。先輩イケメンだし」


「とりあえずなんてそんな…相手に悪いわよ」


 新島春香は驚いたような顔をする。それを見て、中野茉理は大きな溜め息をついた。


「はー、何でそんなに古典的かなー」


「じゃあ、茉理だったら付き合うの?」


「付き合うよ。どこに不満があるってゆーのよ!」


 中野茉理の即答に、新島春香は思わず苦笑いを浮かべた。


「やっぱりあの噂は本当ほんとーなのかな?」


「あの噂?」


 中野茉理に探るような目を向けられ、新島春香は首を傾げた。


「アンタと春日先輩が付き合ってるって噂」


「ちょ…何よそれ!?」


 新島春香は目を白黒させた。


「春日先輩もモテるのに告白全部断ってるって聞くし、何か事情があって二人が付き合ってるコト隠してるって噂があるのよ」


「ちょっとヤメテよー。春日さんは恵太の友達なだけで、全く関係ないんだから!」


「それよ、それ!」


 中野茉理は、さらに追求の手を緩めない。


「どれよ?」


「いくら兄妹仲が良くても、毎日お弁当一緒とか絶対変だって。春日先輩と会うためのカモフラージュだってのが、もっぱらの見解」


 ホント勘弁してくれ…新島春香はゲンナリした。


「こんな噂、春日さんに失礼でしょ。変に広めたりしないでよね!」


「私が広めてる訳じゃないよ!」


 中野茉理は首をブンブンと横に振った。


「まーでも、春香見てるとやっぱ違うのかなーとも思うし」


「どういう意味?」


「女の勘。他に好きな人がいてそーな気がする…例えば、お兄さんとか」


「ちょっ…え!?」


 新島春香は思わず狼狽えた。それから心の中で「しまった」と舌打ちする。


「え、なに、その反応?アンタまさか…」


「あんまり意外すぎてビックリしただけ!そんなコトある訳ないよー」


 新島春香はこれ以上ないくらい、優雅に微笑んだ。


   ~~~


 放課後、新島恵太と真中聡子が図書室のドアを開けて中に入ると、新島春香とルーが待っていた。


「あれ?確か、新島くんの妹さん…」


 真中聡子が驚いた顔をした。


「はい、妹の新島春香です。コッチは転校生の…」


「ルー=リースです」


 二人はペコリとお辞儀をする。


「え…何で?」


 真中聡子は戸惑いながら新島恵太を見た。


「なんかコイツらも、一緒に勉強するんだと」


「あ…そうなんだ…」


 新島恵太の返答に、真中聡子は少し残念そうな表情を見せた。


   ~~~


 新島春香は、向かいに座る新島恵太と真中聡子の姿を頰杖をつきながら眺めていた。


 確かに真面目な勉強会、それは間違いないようだ。


 しかし見過ごせない問題がひとつある。


「真中さんて、クラスメイトですよね?二人ちょっと、引っ付き過ぎじゃないですか?」


 新島春香の指摘に、真中聡子は驚いたように顔を上げた。それから顔を真っ赤に上気させ、焦ったように立ち上がる。


「ご…ごめんなさい。私、また…」


 真中聡子は鞄からいつものポーチを取り出すと、呼び止める間もなく逃げ去っていった。


「真中さん!」


 新島恵太は立ち上がると、新島春香の顔を見た。


「春香っ、今日はもー帰れ!」


 少し怒ったように言い残すと、真中聡子を追いかけていった。


「あーあ、言っちゃいましたね」


「だって…」


 ルーにジト目で睨まれながら、新島春香は「ブー」と口を尖らせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る