第13話
「ショウ!」
夕方の賑わいを見せる商店街を人波を縫うように歩いていた春日翔は、突然背後から名を呼ばれた。
振り返ると、輝くような銀髪ボブヘアーの少女が、コチラに向けて駆けてきた。そのまま春日翔の手を取ると、強引に手を引き走り抜ける。
「おい、アンタ誰だ!」
水色のワンピースの裾をはためかせながら前を走る少女に向けて、春日翔は困惑した視線を向けた。
「いいから、走って!」
振り返った少女は、真剣な表情で一喝する。
二人は暫くそのまま走っていく。すると少女は何かに気付いたように狭い路地に急に入り、春日翔を強引に引き寄せた。
大きな看板の陰に隠れるように二人は身を潜める。
「おい、アンタ…」
「しっ!黙って」
少女は自分の口元に、右手の人差し指をたてた。
二人はかなりの密着状態だ。春日翔のお腹のあたりには、向かい合って身体を押し付ける少女の柔らかいモノがその存在感を主張してくる。
さすがの春日翔も「どわぁあ!!」と感情が大爆発を起こす寸前、表通りに同じ学校の制服を着た二人の少女が現れた。
「ちょっと誰よ、今の女!」
「春日くんと、どーいう関係!?」
大きな声で罵倒しながら、そのまま商店街の先へと走り去っていく。
「行ったようですね」
ようやく少女が春日翔から離れた。それから二人の少女が走り去った先に視線を向けて、戻って来ないことを確認する。
「ショウのことをコソコソとつけ回していましたので、もしかしたら敵の刺客かもしれません」
そう言いながら、少女は春日翔に視線を戻す。するとそこには、顔を真っ赤に染めて俯く少年の姿があった。
「あ、あれ?どうかしましたか、ショウ?」
少女の無自覚な問いかけに、春日翔は精一杯の照れ隠しで声を張り上げた。
「とりあえず、お前、誰だよ!!」
~~~
面と向かって名を問われたことに、少女は少し哀しそうな表情を浮かべた。しかし首を小さく横に振ると、直ぐに笑顔で口を開く。
「私はアリス=キーリンと申します。イギリスから来ました。以後、お見知りおきを」
「イギリス?もしかして、リースさんの関係者とかか?」
「さすがショウ、なんでもお見通しですね」
話が早くて助かる。アリスは「クスッ」と笑った。
「それだ!」
「…?どれでしょうか?」
突然の春日翔の発言に、アリスはキョトンとした。
「アンタ何で、俺の名前を知ってる?」
「あっ!」
アリスは口元に手を当て「しまった」という表情を作る。どうやら
「まあいい。んで、俺に一体何の用だ?」
「ですから、誰かに狙われていたようですので…」
「あのなー、俺も誰かは知らんが、アレは同じ学校の生徒だ。用件も粗方予想がつく」
春日翔は面倒臭そうに頭を掻いた。
「そういう意味では、一応助かった」
「なるほど、そういう事でしたか。敵はハルカだけではないのですね」
アリスは困った様子で、溜め息をついた。
「お前、何を言って…」
「面と向かって争うのは初めてですが、私は絶対、ハルカには負けませんから!」
それだけ言い残すと、アリスは商店街を行き交う人混みの中に、呼び止める間もなくスッと消えた。
「なんだったんだ、一体…?」
春日翔はその場に一人、呆然と立ち尽くしていた。
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