第12話

「早くも1年の男子どもが、新島派だリース派だって騒ぎだしてるのよね」


 新島春香の前の席に座っている中野茉理なかのまつりが、新島春香の机の上に頰杖つきながら、ブスッとしたように呟いた。


 彼女とは中学校来の友人である。少し茶髪のショートボブにゆるふわパーマをかけた少女だ。高校に入って、席が前後になれたのは幸運であった。


「まー、気持ちは分からんでもないけど…」


 言いながら、中野茉理は新島春香をマジマジと見つめる。そんな視線を受けながら、新島春香は困ったように「ふー」と溜め息をついた。


「ルーならともかく、大した取り柄もない私に何でそんなに人気が集まるのか、ホントよく分からないのよね」


 新島春香は横の席を眺めながら、不思議そうに呟いた。ルーの周りは、相変わらず大盛況である。今では、別のクラスからもやって来るほどであった。


「本気で言ってるの?」


 中野茉理は呆れたように言った。


 いいえ、もちろん謙遜です。しかしそんな事は微塵も感じさせること無く、新島春香は首を傾げた。


「どういう意味?」


「容姿にしても学力にしても、個々で見れば春香より上は確かにいてるわよ。でもね…」


 そこで中野茉理はグッと身を乗り出した。


「全部まとめた総合力なら、やっぱり春香がトップクラスなのよ!」


「まさかー、褒めすぎよ」


 言いながら新島春香は中野茉理をチラリと見る。


 しかしこの娘は気付いているのだろーか?


 中野茉理を含めた3人が、1年2組のトップスリーと囁かれていることを…


 この三角地帯が、マイナスイオンの発生する癒しの聖域だと言われていることを…


   ~~~


「恵太、一緒に帰ろ」


 放課後になり、新島春香は2年4組に駆けつけた。あれ以来、ちゃっかりルーもついて来る。まあ、校門のところでちゃんと駅に向かうので、すぐに別れることになるのだが…


「あ、悪い。ちょっと勉強して帰るわ」


 新島恵太が鞄に荷物を詰めながら顔を上げた。


「勉強…まさか真中さんと?」


「ん…?そっか、お昼いてたもんな」


 そのとき鞄を抱えた真中聡子が、新島恵太のすぐ横に立った。


「新島くん、行こ」


「面倒かけるけど、よろしく頼むな」


「うん、任せて」


 新島恵太は立ち上がると、新島春香とルーの方に顔を向けた。


「悪いけど、先に帰っててくれ」


「うん、恵太も勉強頑張って」


 新島春香はニッコリ笑って頷いた。


   ~~~


「…て、言ってませんでした?」


 図書室の隅っこの席に座りながら、ルーは向かいに座る新島春香にジト目を向けた。


「誰も先に帰るとは言ってない」


「それ、得意ですねー」


「アンタは気にならないの?」


 新島春香は小声で怒鳴った。


「モチロン気にはなりますよ。彼女の距離感は天然の童貞キラーですからね」


「な…急に何言い出すのよ!」


 ルーの見た目に似つかわしくない発言に、新島春香は目を白黒させた。


「ほら見てください。普通に勉強してるだけですけど、肩は完全に密着してます」


「え…あ!?」


 思わず大きな声が出て、新島春香は焦ったように口元を押さえた。二人はハラハラしながら顔を伏せていたが、新島恵太たちに目立った動きはない。どうやらバレなかったようだ。


「気をつけてくださいよ」


「ゴメン…」


 ルーに叱責され、新島春香はシュンとなった。


「話を戻しますよ」


 ルーは「コホン」と咳払いをひとつ入れた。


「ケータお兄ちゃんは、無意識に慣れたモノですけど……そのせいであの二人、傍目から見たら既にカップルですよ」


「ちょっと、どーなってるのよ!?」


 新島春香はなんとか理性を保った。ここが図書室でなかったら、既に駆けだして二人の間に割り込んでいたところだ。


「なんでリストにもあがってなかったヤツと、こんなコトになってる訳?」


「更に恐ろしいことに…」


「まだあるの!?」


 新島春香はルーの言葉に辟易した。


「ブレザーの上からでは分かりにくいですが、真中聡子さんは、お胸にかなりハイスペックなモノが実装されています」


 言いながらルーは、新島春香のお胸をジーと見た。


「アンタに言われたくないわよ!」


 新島春香は両腕を組んでルーの視線を遮ると、心の底から反論した。


「私はこれからが成長期ですので」


「私だって、そうよ!!……て、その前に」


 新島春香は強引に冷静さを取り戻す。


「なんでアンタ、そんなコト知ってるのよ?」


「エスパーですから」


 ルーがニッコリ微笑んだ。


「その設定、まだ生きてたの?」


 新島春香は「はー」と大きく溜め息をついた。

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