美しき死者使い
「……!」
正気に戻ったラダが剣を抜き放ち、詠唱を始めた。
「炎の精霊王ヴォルフガンドに命ず。我が盾となりて全てを焦がす炎の壁を現し給え! 守護炎陣!」
刹那、術者のラダを中心に一定距離の円を描く様に発生した炎の壁! 不思議とそれによる熱はここまで届かない。
「アルタヴィオ様、この円から出ない様に! 敵は父上と兵士が対処致します!」
「ラダ、この炎を消せ!」
「は⁉︎ ……いや、ここから出てはなりません!」
「軍の指揮を執る者が戦況が見えなくてどうする」
「それは……」
「お前の俺を護りたいという想いは嬉しい。が、邪魔だ。消せ!」
「アルタヴィオ様……」
夕食時の剣幕はどこへやら、今回は俺の気迫が勝った。
ラダが再び念を込めると周囲の炎が消えて無くなる。だが俺を護るという信念までは消えてはいない。
「絶対に私から離れないで下さい」
襲い来る
「そうだ。俺から離れるな、ラダ」
彼女を俺の後ろに下がらせる。
「え?」
「お前は俺が守ってやる」
「えぇ? あ、いや……」
行くぞ、ヴィオレット!
戸惑うラダを尻目に
『クックック。泣かせるなぁ』
揶揄う様に笑うと俺より先に敵の元へと飛び込んでゆく。
レグニトを振り回し、ヴィオレットへ攻撃のイメージを伝える。実際にはこんな事をしなくても彼女には伝わるのだろうが、それだと俺以外には俺が攻撃した様に見えないからな。
幽体だからか、ヴィオレットの攻撃スピードは俺を遥かに凌ぐ。
一瞬で
「アルタヴィオ様……凄い!」
ラダが背後で呟いたその言葉を俺は聞き逃さなかった。
この称賛こそ俺が待ちに待ったものだ。
やったぞ。遂に聞いた俺への賛美の声!
ラダ。君は俺公認で俺のファン第一号だ。
『プッ。バッカだねぇ~~』
煩い。お前はさっさと敵を殲滅しろ。
もっと行くぞ!
『へぇへぇ』
笑いながらヴィオレットは瞬く間に目の前の
「こらラダ! 王子に戦わせるな!」
後ろからユリウスの声だ。
「で、でも……」
「ユリウス! 俺の聖剣は
「馬鹿な。王子に戦わせるなど有り得ませぬっ!」
「うるっせぇ! 言う事を聞けっ! 信用ならんならこれを見ろっ!」
ヴィオレットッッ!
即座に横一線に薙ぎ払うイメージを伝えると、狂気の籠った赤い瞳を輝かせて押し寄せる
数十匹が一気にガスの様に消え去ってゆく。
「お、おおお……アルタヴィオ様、いつの間にその様な力を」
ズキッ……
頭の芯に痛みが走る。だが今は構っていられない。
「分かったらあっち行ってろ! ラダは俺が守ってやる!」
「承知!」
ユリウスはやり込めた。後は……
「ルーカスッッ!」
「はははいっっ!」
おっと意外に近くにいたな。
「見てたか?」
「この目でしかと」
「ちゃんと見て記録しろよ?」
「勿論で御座いますっ!」
よしよし。
後は黒い女、
あれからどれだけの
「敵の数が増えているのか?」
「聞いていた数より遥かに多いですね」
ラダも気付いている様だった。勿論彼女もジッと俺の背後で守られている様な奴じゃない。遠隔の攻撃魔法でかなりの数を屠っている。
ヴィオレット、どういうことだ?
『あの
そうだな。お前の言う通りだ。
それはさて置き、そいつは何処にいる?
『さて置くな! ……左前方、結構距離はある。大きな一軒家の中にいるな』
なるほど……言われてみれば。
「ラダ! 今から特攻をかける! 目標は左前方奥!」
「い、いけませんアルタヴィオ様! この様な敵の数、突き進めば退路を断たれます!」
「いや、既に退路は無い」
「え⁉︎」
背後からも多くの
単純に魔物を増やすだけでは無く、『俺達を殲滅する為の作戦』を
「な……な……」
「分かったか? 既に俺達は袋の鼠。なら一矢報いなくてはならんだろう?」
「畏まりました。ですが左前方というのは?」
「見ろ、
「!! わかりました。援護致します!」
「行くぜ!」
ヴィオレットが敵を屠りながらも俺に冷笑を浴びせてくる。
言いたい事は分かっている。
だって『知ってるから』だと話がおかしいだろ?
『クックック。アタシは何も言っていないぜ』
いわなくてもわかるんだよ、この美少女め!
あーーあったま痛え!
頭痛による顰めっ面を見てヴィオレットがクフフフと笑った気がした。
「……聖なる雨!」
ラダの範囲魔法だ。
魔法の聖水が降り注ぎ、周囲の
「さあ行きましょう!」
「さっっすがラダ!」
「とんでも御座いません。アルタヴィオ様を見てまだまだ未熟だと悟りました」
ああ、なんて素直な良い奴なんだ。
未来の俺の妻よ。子供は5人作ろう。
それまでは絶対に守ってやる。
俺達と数十人の兵士は村の中へと一気に走り出す。
際限の無い敵の数にさすがのラダも疲労の色が見え始めてきた。俺も頭痛が増すばかりだが、ここは英雄として気遣ってやらねばなるまい。
「ラダ、もう範囲魔法を撃たんでよい」
「いえっ……まだ、やれます!」
「無理するな。お前が倒れたら俺はユリウスに殺される。安心して俺とヴィオ……俺に任せろ」
「は? あ、いえ、はい」
危ねーー。
あ、ひょっとしてあの家か?
大きな一軒家。フィッソの村長の家だろうか。
『あれだな。向こうもこっちに気付いている。どうやら出てくる様だ』
遂に敵の大将とご対面か。
野郎、ボッコボコに……
「アルタヴィオ様! あれ!」
扉が開き、中から出て来たのは黒いワンピースを着、銀色の長髪を靡かせた長身の女だった。
透き通る様な白い肌にいくつもの珠を繋いでブレスレットやアンクレットにして手首と足首につけている。
瞳の色は白く濁り生気が無く不気味な印象を受けるが、彼女の美貌はそれを遥かに越える衝撃を俺に与える。
野郎、ボッコボコに……ボッコボコに……
出来ねえ!
惚れた!
『アッハッハ。お前の
黙らっしゃい!
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