第25話 土地神様
最後の鳥居をくぐり山の頂上の社にたどり着く。今日も快晴だ。山の頂の高い位置からは、田畑と小さな町並みと大きな川が見えている。
「えーっと、とにかくリュックを探さないと……」
昨日、見知らぬ少年と登った大きな木の下へ進みながら、草むらの中をチェックする。
「うひょ、冷たい、草が湿ってる……夜中に雨が降ったんだ。大丈夫かな、僕のリュック防水じゃないから」
一番に心配したのは買ったおやつが湿っていないかということだったけど、でももっと大切なものがある。リュックにはお守りが入っていた。
「濡れたらダメなんじゃないかな」
あちこち探してみたけれど僕のリュックは見つからない。キィィっと近くで音がした。ギ、ギギギ……なにかの扉が開くような音がする。
「……社の方から聞こえてくるみたい」
昨日は逃げ出した僕だけれど、今日はリュックを探さなければいけない。慎重に社の正面へと足を進める。
(あやかし? そんなものは居ませんように)
社の入り口の扉が少しだけ開いていた。来た時は閉まっていた筈だ。
「ふぅうう、行くしかないかなぁ……行きたくないよ~」
怖いときは自然と独り言が大きくなる。それでも勇気を出して僕は社の正面に立った。
「ふ~~う、よし!」
大きく深呼吸をしてから一気に扉を開けて中に入る。二、三歩進んだところで、バタンと大きな音がして社の扉が閉まった。
「うぁああ~」
腰を抜かすほど驚いた。勝手に扉が閉まってしまうなんて初めてだった。僕はお尻を社の床にペタンと落して、動けなくなってしまった。神社の社の中は思ったより広いけれど、薄暗くて、天井がとても低かった。
「こんなに天井が低いお社は初めてだけど……えっ、あの天井にいるのは」
金色の大きな目玉が僕を睨んでいた。全身が真っ黒で、太い胴が空中でうねってい
る。
「こ、これが、て、天狗!」
尻もちをついたまま腕で後ろに下がる。
「でもなんか形が違う……あれ?……なんだよ~~ふぅビックリさせる」
目が暗さになれると、僕をびっくりさせたものの正体が見えた。僕が見たのは天狗ではなくて、お堂に置かれた大きな木造の置物だった。
「これはご神体かな? この形は……龍?」
部屋の半分もあるご神体は長い胴をくねらせ僕を金色の目で見ている。まるで空中を飛んでいるように天井から吊られている。
「あっ、僕のリュックだ」
木彫りの龍の顎の下に、僕の黄色のリュックが置かれていた。
ご神体の木彫りの龍だと分かっても、心臓はドキドキして止まらない。僕は龍の金色の目を見つめたまま、そっとリュックに近づいた。もし目を離したら龍が動き出しそうだったからだ。
でも龍は最後まで動くことはなく、無事にリュックを掴むことができた。リュックを開けて中を確認する。
「良かったなぁ、おやつもお守りも無事だった。全然濡れてないし、誰かお参りに来て僕のリュックをここに置いてくれたのかな」
安心して一心地ついた僕は、頭上に吊られた大きな龍を見上げる。
「随分古そうだけど、きれいにされているね。うん? あれって二階で見つけた……あっ!」
高さがあってハッキリとは分からないけど、龍の顎の下に黒い翼のようなものがついている。三十個くらいはあるように見えた。
「やっぱり、二階で見つけた黒い翼に似ているなぁ。龍に翼なんてあったっけ? しかも顎に」
僕が見つけた翼みたいな物も二階の暗闇で見ただけなので、この龍の顎についているものが同じものなのか、ちゃんとは分からなかった。爺ちゃんの家の二階で見つけた黒い翼にそっくりだと思うけれど……。そして僕は爺ちゃんと婆ちゃんのことを急に思い出した。
「うぁ、こんなことやっている場合じゃないよ。昨日は遅くに帰ったし、今日は無断で出て来たんだから早く帰らないと! 二人が心配する!」
僕は慌ててリュックを背負い、社の入り口へ向った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます