第24話 思い出す不思議

「おまえ。お喋りだな」

 いきなり男の子が僕への感想をぶっきらぼうに述べる。

「え? そんなことないよ。いつもは、もっと話しなさいって言われるよ」

「誰にだ?」

「お母さんにだよ。それだけじゃなくて学校の先生とか友達にも言われる」

「爺と婆はどうだ」

「爺ちゃんと婆ちゃんは何も言わない」

「他はどうだ」

「他? 他って誰のこと?」

「おまえ家の周りの柿の木。縁側に来る鳥。アヒルどもはどうだ」

「そんなの、何も言わないよ。言うわけ無いよ」

「ふん。そうか」

 朝寝坊していると、小鳥がピピピと鳴いていたけど何を言っているのか、意味までは分からない。

「おまえに聞く気があれば。もっとたくさんの声が聞こえる」

 木や鳥が僕に話しかける? そんなバカなこと……でも爺ちゃんは野菜と話すって……

「ところでタカ」

「え?」

 急に名前を呼ばれて僕はビックリした。

「もう遅い時間だ。おまえを心配する者がいるだろう」

「あ、そうだった……爺ちゃんと婆ちゃんが心配するね」

 木の幹に手を伸ばして僕は立ち上がった。男の子は腰を降ろしたまま頷く。

「久しぶりに楽しかった。また来い」



 その日遅くに爺ちゃんの家に戻った僕は、長い時間歩いてとても疲れていた。何かに追いかけられて走ったし、不思議な男の子と出会って木登りもした。


 たくさんのおしゃべりも。たくさん動いたし、いろんなことを感じて、体だけじゃなく心も疲れているみたい。僕は夕ご飯を食べると、お風呂にも入らずに寝てしまった。


 心臓がドキドキして、目が覚めた。寝間着がグッショリと濡れている。眠っている間に、僕は何か夢を見た。何を見たのか忘れてしまったけれど、昨日の不思議な男の子のことのような気がする。


「名前、結局聞けなかったなぁ。勝手に呼べて言ってもねぇ」

 今日の僕は寝坊助に逆戻り。縁側にはおにぎりと井戸水をくんだ湯飲みが置いてあった。

「ふぅ、起きなくちゃ」


 婆ちゃんが用意してくれたおにぎりを食べる。体に力が湧いて来た。汗をかいて乾いた喉を湯呑の井戸水で一気に潤すと、頭の中がスッキリしてくる。縁側から見える、きゃど・ぽんぽん・じぃ、良い天気。小鳥がすぐ近くで何かを啄んでいる。


 心が落ち着いた僕は昨日のことを考えてみることにした。


「神社で出会った、あの子は誰なんだろう。なんか不思議な男の子だった。あの子が天狗? でも鼻も長くなかったし、天狗がおにぎりを食べるかなぁ」


 柱の時計は十一時を指していた。お昼には二人が帰ってくる。昨日は疲れた僕を見て何も聞かなかったけど、今日は色々聞かれるかもしれない。


「しょうがないか、二人とも心配しただろうし……あれ?」

 いつも座敷の端に置いてあるリュックがないことに気が付いた。

「昨日、慌てて帰ってきたから、木の上に置いてきちゃった?」


 僕は神社に大きな忘れ物をしてきたようだった。僕の持ち物はたいした物は入っていなかったけど、爺ちゃんが知り合いからもらったお守りが中に入っている。


「急いで取りに行かないと……今から出れば夕方には戻れるかも」


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