第17話 お風呂の後の事

 ザバァ。湯船から立ち上がり、僕は急いで洗い場へ出ると小さな窓から顔を出して呼吸する。


「はぁはぁはぁ、あ、あつい~~」

 かまどの火の調整をしていた婆ちゃんが僕の真っ赤な顔と体を見て笑う。


「タカにはこれでも熱すぎるみたいだね。でも肩まで浸かって二十数えると、よく暖まって、疲れもとれるし風邪もひかない」


 婆ちゃんの言葉に応える余裕はなかった。

 僕は体を冷やす。犬のようにハアハアと呼吸する。婆ちゃんは急いでお風呂のかまどを離れて家の中に入る。


 僕が洗い場で使ったタオルを絞って自分の体を拭き始め、それが終わる頃には脱衣所の戸が開いて、婆ちゃんが顔を出す。僕は絞ったタオルを婆ちゃんに渡して代わりにバスタオルを受け取る。


 爺ちゃんの家では、普段はバスタオルを使わない。これは僕の専用アイテム。夏のお日様で乾かしたバスタオルは少しゴワゴワするけれど、ひだまりの匂いがして僕は好きだ。


 婆ちゃんは僕から受け取ったタオルを力一杯絞り、水分を抜いてからお風呂場のドアのタオル掛けに広げる。婆ちゃんは後で僕の使ったタオルを使ってお風呂に入るみたいだ。


 バスタオルで体を拭き終わり、脱衣場から出ようとすると、僕からバスタオルをとった婆ちゃんが、後ろから僕の体を拭き始める。


「全然拭けてないよ。タカ、ほら前を向いて」


 痛いくらいに、頭、肩とゴシゴシ拭いてから、右手、左手、右足、左足と拭き取っていく。仕上げに、タオル掛けに広げたまだ湿ったタオルを人出し指でくるんで僕の耳の中を掃除してくれる。


 すぐにでも、涼しい風が通る居間に行きたい僕にとっては我慢の時間だった。


「ふぅ、もういいよ、タカ」

 やっとオッケーが出た。廊下を走り出す僕に、婆ちゃんが後ろから声をかける。

「居間のテーブルに、スイカを置いてあるからな」


 前を向いたままで頷いた僕。その頃には手ぬぐいだけでキッチリと体を拭き取った爺ちゃんが風呂場から脱衣所にあがってくる。


「バスタオルなんて、わたしたちの頃には無かったけどねえ」

 婆ちゃんが言う無かった物。バスタオル、テレビ、ゲーム、……僕が無いと困るもの。

「そうだな、そんなのは無かったな」

 爺ちゃんも婆ちゃんと同じだった。


(僕が必要な物は、本当はいらない物なの?)


 でも僕はバスタオルで体を拭いてもらわないと、お風呂から上がれない。自分の家でもお母さんがいつも僕を拭いてくれる。


(耳の中の掃除は婆ちゃんの専売特許だけどね)


「さあ、タカ、これで田んぼの泥は綺麗に落ちたな」

 数日前の失敗を爺ちゃんがまた話しているのが聞えて、僕は少しむくれ顔になる。

「今日は田んぼには落ちてない!」

 それを聞いた爺ちゃんは僕とは逆に上機嫌になって、が、ははは、大きな声で笑った。

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