第14話 アヒルの隊長に就任
冬にはたくさんの雪が降るこの町だけど、真夏は帽子をかぶり首には何か巻いて日差しを遮らないと頭がクラクラする程暑い。
「今日は特に暑いから」
婆ちゃんが出かける前に麦わら帽子を渡してくれた。太陽から首筋を隠す手ぬぐいも。しっかりと暑さ対策をした僕は今、小さな川の辺に座っている。ここには一本の大きな柳の木が立っていて、夏の強い日差しを和らげてくれていた。
小川の流れは田畑の用水にも使われている。見かけより豊かな水量と水深、速い流れを持っている小川。昔からの姿そのままの川底には水草が何層にも繁っていた。川の速い流れとは別に水草はゆっくりと流れてゆらゆら揺られている。
小川の水辺は土が少し盛られ、人が歩ける小さな道になっている。所々に小さな関が設けられていて、そこから田んぼへ水を引き込む。夏は緑の稲穂が風に揺らされ、見渡す限りにずっと続いていく。数本のあぜ道が稲穂を追いかけるように真っ直ぐに伸びている。
水辺の道を歩く僕には気になることがあった。
「ブカブカだぁ」
大人用の大きい麦わら帽子が合わなくて何度か被り直す。
「あっ、水」
出かける時に婆ちゃんに言われたことを思い出し、手ぬぐいを首から外した。落ちないように注意しながらソッと手を伸ばして、手ぬぐいを川の水につける。
「ふ、ふぉー、冷たいー」
手に触れる川の強い流れと冷たさに思わず声が出た。
「ギュウ~っと、腕が捻れるくらい絞る。まだ、まだ!」
川から引き上げた手ぬぐいを力一杯に絞る。手ぬぐいに含まれていた水が、ポタポタと僕の足下に滴となって落ち始めた。
「もっと絞らなくちゃ」
ギュウ~ッと、両腕に力を込める。ポタポタ。ポタ、ポと、水が滴るのが止まった。
「ふぅ……これくらいかな」
絞りきった手ぬぐいを首に巻く。
「ふぉ、ふぉふぉぉ~冷たい」
僕の小さな手では絞りきれなかった水滴が、冷たい水の流れとなって首筋から流れ、胸や背中を伝っていく。その冷たさは、真夏の太陽に照らされて僕の体が思ったよりも熱くなっていたと教えてくれる。
日中の一番暑い時間に、川辺にいるのは涼しさを求めてのことではなかった。
寝坊助を三日続けたことを反省した僕は、「役割」が欲しかった。野菜になって売られる夢を見た僕は、爺ちゃんと早起きをする約束をした。現実の爺ちゃんは僕を出荷したりしないけど、生き物を食べないと生きていけないのは夢でも現実でも同じだった。だから自分の役割を知りたかった。そう爺ちゃんに相談した。
「アヒルの面倒でもみてみるか?」
なぜアヒルの面倒を見ると僕の役割が分かるのか不思議だったけど、まずは爺ちゃんの言う通りにやってみることにした。爺ちゃんは僕に顔を近づけて注意を促す。
「いいかタカ。あいつらは勝手に行動するからな。舐められるなよ」
午後の暑くなる時間にアヒルを小川に連れて行って水浴びをさせる。「あいつら」三十羽のアヒルは可愛い見かけによらず、手強い相手だと爺ちゃんは言う。
「べつに所詮はアヒルでしょ? 少し数が多いからってなに? 見張りなんか簡単だよー」
「ほぉう、ほぉう、そうか」
感心しているのか、疑っているのか、分からない表情の爺ちゃん。婆ちゃんは僕が一人で川に行くことを心配する。
「爺、小さな子には川は危ない」
僕のことを本当に心配しての言葉だった。でもその時の僕は子供扱いされた気がして、強く言い張った。
「だから、そんなの簡単だよ! 今日からアヒルの面倒は僕が見るからね!」
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