第13話 それぞれの役割
寝ぼけまなこでも、朝ご飯は爺ちゃんと婆ちゃんと一緒に食べることが出来た。
「どうしたんだタカは? こんなに早起きなのは見たことがない。雪でも降らなきゃいいが」
朝の一仕事を終え朝ご飯を食べている爺ちゃんが僕を茶化す。
「今日から早く起きるって爺ちゃんに約束したんだ。守らないと出荷されちゃうんだ。ビニールに詰められてスーパーで、僕は売られちゃうんだ!」
僕の顔をしげしげと見てから爺ちゃんは婆ちゃんに聞いた。
「おれはそんなこと言ったか? 婆、あんまり急に朝早く起こしすぎじゃないか? タカが寝ぼけているぞ」
ご飯と味噌汁を準備しながら婆ちゃんが答えた。
「タカは自分で起きたんだよ。なんか昨日怖い夢を見たとか言ってた」
「なるほど。朝寝坊なのが自分でも分かっていてそれが夢に現れたんだな。出荷される?タカおまえ……野菜になったな?」
「当たってる……」
箸を置いて爺ちゃんに向って昨日の夢のことを話し出す。一通り話を聞いた爺ちゃんが口を開いた。
「なるほどな。タカだって知らない家に連れて行かれて、押し入れに閉じ込められて、ご飯を食べさせてもらえなかったら、辛くて悲しいだろう? 野菜も同じ気持ちだ。それが分かったのは……」
「良かったって言うの!?」
大きな声を出した僕に爺ちゃんは少し驚いたようだった。テーブルに並ぶおかずを見ながら僕は夢を見て感じた疑問を話す。
「生きてるんだよね? みんな……キュウリや茄子も牛も豚もアヒルの卵も。それを取って食べるのは可哀想でしょ?」
真剣な表情で答えを待つ僕を見た爺ちゃんは、逆に表情を和らげ話し始めた。
「なぁタカ、生き物は全てに役割があるんだ。おまえに食べられる野菜や動物や魚は、人が生きていくために必要なものだ」
「僕に食べられるのが、野菜の役割だと言うの?」
「そうだ。だから可哀想ではない。立派に役割を果たしているのだから。爺と婆は野菜を育てる時、早く大きくなれ、そう言って大切に育てている」
「大切なら、それなら、食べなきゃいい」
ほころびた爺ちゃんの顔は笑顔でしわくちゃになり、僕の頭に手を置く。
「ご飯を食べる時に手を合わせて言う言葉があるだろう?」
「いただきます?」
「そうだ。人間は食べないと生きていけない。そして本当は殺して良いものなどない。だから食事の時に感謝する。ちゃんと手を合わせてな」
爺ちゃんの言っていることは全部は分からなかった。矛盾しているとも思う。でも人は何かを食べなければ生きていけないのは本当で、だから感謝する。僕を生かしてくれるものに手を合わせる。それは必要なことだと思った。
「野菜の話はもういいだろう? ご飯が冷めるよ」
婆ちゃんが僕に箸を渡した。
「ねぇ爺ちゃん、僕にも役割ってあるのかな?」
「ああ、一杯あるぞ。爺も婆にとっても、タカはここにいることが大事な役割だ」
「いるだけって……それだけ? でも……僕にも役割があるんだね」
僕は笑顔で両手を合わせて、頭を下げて感謝した。
「いただきます!」
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