第21話

 俺は少し遅れて席に着くと、穂香ちゃんは可愛らしい笑顔を俺に向ける。

 何故かそれに負けじと優しい声をかける神崎さん。


「さあ、いただきましょ」


「「いただきまーす(!)」」


「い、いただきます……」


 俺は肉じゃがを一口戴くと、凄く美味しくてまた懐かしい味がした。母さんの肉じゃがに少しだけ似ていた。

 俺は前が見えなくなっていた。


「ど、どうしたの?!」


「……いや、懐かしくてさ」


 昔、両親と三人で食卓を囲んでいたのと、母と父はもの凄く仲が良かったのを思い出す。

 でもその両親はもう居ない。それが悔しい。寂しい。


「……翔太君、一杯食べてね」


「お兄、よしよし」


「ありがと穂香ちゃん……透子、さん」


 俺は無心で涙を流しながら、お腹が膨れるまで一杯頬張った。





 ☆






 夜も遅くなり、穂香ちゃんは部屋ですやすやと眠っている。

 俺と神崎さんは外に出て、近くのベンチで夜空を見上げていた。


「……綺麗だね」


「うん……」


 神崎さんはずっと夜空を見上げていて、俺は横顔を見る。

 月夜に照らされた横顔が妙に綺麗で、鼓動が速まるのが分かる。

 それに気付いたのか、神崎さんと目が合う。


「神崎、さん……」


 なにかが喉元につっかえて、発したくてもこの関係が壊れるのが怖くて言えない。

 そんな言葉が俺の心を支配し始めた。


「んー、何?」


 普段と変わらない笑顔、ずっと見ていたいぐらい印象的な笑顔なのに、今だけは違った。

 遂に俺はその気持ちを言葉に乗せて、発してしまいもう後戻りは出来ないと悟った。


「好き……です」


「えっ」


「神崎さんのことが……好きなんです」


 神崎さんの目には一筋の光が流れていて、でもどこか幸せそうな顔で俺に微笑む。


「遅いよ、もう」


「ごめん」


 俺を優しく抱き締める神崎さん、心が暖かくなっていくのが分かる。


「もう離さないから、だから離れないでね?しょうくん」


「うん……」


 俺は彼女の背中に腕を回し、抱き締め返す。

 柔らかな感覚なんて気にならないぐらい強く、優しく。


「私も好き、だから……これからよろしくね?」


「うん」


 そっと顔を離すと目の前には顔があって、お互い唇に視線が向かいそのまま触れ合う。


「んっ……」


 一瞬だけど触れ合って、ゆっくりと離れようと思ったら何かが切れる音がしてベンチに押し倒す。

 足りない……こんなのじゃと同じだと思ってさっきより強めに。


「んむっ……!?んぅ……っ」


 最初は驚いていたけど、徐々に受け入れ始め、そっと唇を離す。


「しちゃった、ね……」


「うん、二回目だけど……」


「もしかして先輩と……?」


「ううん、神崎さんと」


「ふぇっ……?」


 厳密には倒れたところにたまたま触れ合っただけだ。

 でもそれは言わない、言っちゃうとまたやってしまうから。


「ヤバイっ……なんか嬉しい、かも」


「もう一回する……?」


「ううん、これ以上しちゃうと顔見れなくなっちゃう」


 行動、言動、仕草全てが愛おしく感じた。


「あ、そうだ……ねえしょうくん」


「何かな?」


「紗奈、って呼んで欲しい」


 俺の胸が高鳴った、なんて可愛いお願いなんだろうと。


「分かった、


「っ?!えへへ、大好き」


 俺達はこのままの体勢で、幸せを噛み締めながら笑い合った。

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