第19話

 翌日、俺はバイト先で仕事をしながら、昨日の事を考えていると希海さんに怒られてしまった。

 ボーッとしすぎて危なっかしいとのこと。


「ふぅ……あっついなぁ……」


 しかし最近夏に向かってるのか、少々暑い。

 隣に居る神崎さんも胸元をパタパタとさせていて、暑いねと呟きながら一緒に帰路にたっている。


「あ、そうだ、ねえ鷹崎君」


「なに?」


「この後って暇かな?うち来ない?」


 まさかの申し出に思わず俺は立ち止まる。


「鷹崎君?」


「良いの……?俺なんかで」


「うん、というか妹が会いたがってて」


 妹さんがか……まあ流石に親御さんには話さないよね。


「じゃあお言葉に甘えて……」


「じゃあいこっ」


 トクン――俺は赤くなった顔を逸らして小さく頷いた。





 ☆





「ただいまー」


「……お、お邪魔……します……」


 初めての女の子の家に、流石の俺も緊張せざるを得なかった。すると神崎さんの母親らしき人がこちらにやってきた。


「おかえりなさい、あら紗奈、隣の子は?」


「えっと……バイト仲間でクラスメイトの鷹崎翔太って言います……」


「そう、いつも紗奈が話してる男の子?」


 ん?どういうこと?


「お、お母さん!」


「そんなに恥ずかしがらなくても良いのよ?紗奈のことよろしくね?」


 俺は苦笑いで応えてると、神崎さんのお母さんの足元からひょこっと顔を出してくる女の子がいて、俺の顔をジーッと見つめる。


「……な、何かな?」


 なるべく怖がらせないように話し掛けると、恥ずかしいのか顔を隠した。

 と思えば、また顔を出して俺の元に近付いてきた。


「お姉のお友達?」


「うん、お友達」


「彼氏じゃなくて?」


 へ?今この子なんて言った?


「こ、こら!鷹崎君が困ってるでしょ!」


「お姉どうしたの?顔赤いよ?」


「穂香!」


 妹さんは神崎さんと一緒に部屋の奥へと入っていき、俺と神崎さんのお母さん、二人きりとなった。

 余りに突然の事過ぎて、処理が追い付かない。


「えっと……上がってく?」


「あ、はい……」


 俺はそのままお邪魔することに。





 ☆





 リビングに入った俺は住んでる部屋と間取りはほぼ一緒なんだなと思いながら、あることに気付いた。


「失礼ですけど……三人で?」


「あー、ちゃんと旦那は居るわよ?今日は遅くなるだけで」


 なんだ居るんだ、なにかヤバイこと聞いてしまったのかと思ってしまった。

 神崎さんのお母さんは俺の顔をジーッとみつめる。


「えっと、顔になにか……?」


「貴方、お名前は確か翔太君って言ったよね?」


「はい」


「そう……大きくなったわね、私のことは透子でいいわ」


 まるで昔の俺を知っているような声色で、話し掛けてくれた透子さんはとても優しい顔をしていた。

 その顔に俺は見覚えがあった。


「あの時俺を救ってくれた人ですか……?」


 透子さんは驚いて俺の顔を見つめて、ぎゅっと抱き締めた。


「そうよ……御両親は残念ながら救えなかったけど、翔太君が無事で良かった……」


 あの事故の後、俺は誰にも心を開かなかった事やその後どうなったのか分からず、ずっと探していたらしい。

 俺もまさかこんな身近に居るとは思わず、感謝の気持ちで一杯だった。

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