第17話

 俺はあの日を境に神崎さんを異性として、一人の女の子として意識するようになり、顔を合わせると思わず逸らしてしまう程だった。

 今の俺はそんなことお構いなしに近付いて距離を縮めてくる神崎さんが、怖くて堪らなかった。


 そんなある日、バイトも学校もない休日の日にたまたまスーパーに買い出しに行っている時だった。

 俺は家でメモした足りないものや欲しいものを見ながら、カゴに入れていき、精算しようとレジに向かう最中、誰かに声を掛けられる。


「こんにちわ鷹崎君っ」


「っ!き、奇遇だね……」


 神崎さんの私服姿が、今の俺には輝きすぎて直視出来ない程可愛くて似合っていた。

 ここ一週間まともに会話出来なかったからか、久々に会話をしている自分が居て、少しだけ嬉しかった。


「鷹崎君も買い物?」


「う、うん……そろそろ買わないとって思って」


 俺は顔も合わさずに答える、だって視れないから。


「そっか、一人暮らしだし、色々と大変だもんね」


 俺は小さく頷いて、悟られないように気持ちを落ち着かせ、ちらりと神崎さんを見ると優しく微笑んでいた。

 まるでこっちを見るのが丸分かりだよと言わんばかりに。


「……か、神崎さんも買い物……?」


「うん、お母さんに頼まれて」


 お母さん、その言葉を聞いて俺は昔の頃を少し思い出してしまう。そういや俺もよく行ったっけ……。

 厳しかったけどそれ以上に優しくて俺は好きだった。

 でもそんな母さんはもう居ない。


「そっか……」


 何故か寂しいと感じてしまった。神崎さんは罰が悪そうにごめんと謝ってた。

 気にしなくて良いとは言えない、俺には神崎さんとは違い、両親すら居ないのだから。


 精算が終わり、買い物袋に入れながら神崎さんを待つ。

 神崎さんは俺と比べて大した量ではなかったため、すぐ終わっていて逆に待たせる形に。


「「……」」


 お互い無言で帰路につき、距離も少しあった。

 その距離は今の俺たちを表してるようで、居心地が悪かった。俺は止まってポツリと呟く。


「そういや両親の事話してなかったね」


 その場所は俺の両親が殺された場所でもあった。


「ここで俺の両親は俺を庇って死んだんだ」


 俺はその通りにいくつかの花束の前に座り込む。

 俺と同じように親を亡くした人、大切な人を亡くした人が居て今も俺と同じように苦しんでいる。

 俺は手を合わせ祈った。


「ま、まさか……鷹崎君って」


「うん、その事件の被害者の遺族でもあり生き残りの一人」


 この場所で大規模な交通事故が起こり、数人が犠牲になって、この事件の惨状を知ってる人は少ない。

 出来ればもう口にしたくない、でも神崎さんには伝えたいと思って呟いた。


「俺……後悔してるんだ、母さんだけは救えたのに……」


「どういう……こと?」


「見捨てたんだ……母さんを」


 父さんはもう既に絶命していた、でも頭から血を流している母さんの姿が怖くて、近付けなかった。


「誰かが俺を抱き抱えて、その場所から離された次の瞬間に近くにあった車が大爆発して、そのまま巻き込まれた」


 その後に救急隊がやっていた。俺は手を伸ばそうにも伸ばせず声を出そうにも出せず。

 俺はその日からずっと塞ぎ込み、後悔しながら生きてきた。

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