第16話

 それから俺は普段と変わらず一人で学校に着き、下駄箱から自分の上履きを取り出そうと、ボックス型の扉を開ける。

 すると一枚の手紙がひらりと落ちた。

 表には鷹崎君へとだけ書いていて、裏面を見てもそれ以外の文字が見当たらず、一体誰が書いたか分からなかった。


「……誰なんだろ」


 とりあえず履き替えて、邪魔になら無いような場所で手紙を開ける。

 文字からして女の子っぽかったけど、そんなことより中身が気になって仕方がなかった。


 ――お昼休み、体育館裏で待ってます。


 これだけだった。





 ☆






 一日休んだとはいえ、それでも心配してくれていて、暖かく出迎えてくれたクラスメイトの皆は優しくてちょっと泣きそうだった。

 そんなこんなでお昼休み、俺は誰にも見られないようにこっそりと教室を抜け出し、体育館裏に向かう。

 ポケットに例の手紙を入れて。


「あっ……鷹崎」


「……あの手紙、先輩でしたか」


「うん、その……一昨日はごめんね」


 そういえば、俺先輩の連絡先だけは知らなかった。


「い、いえ……中途半端なのはやっぱ失礼ですから」


「改めて言わせて……私と本気で付き合って?」


 真冬先輩の顔は真剣で、頬が少々赤いことを除けば凄く綺麗な姿だった。

 ただ一つだけ聞いておきたいことがあった。


「……どうして俺なんですか?真冬先輩なら、もっと他に――」


「君じゃなきゃ、駄目っ……なの」


 真冬先輩は俺に抱き着いた。

 逃がさないと言わんばかりに、力を込めながら。


「初めて逢った時から貴方に惚れたから」


「先輩……」


 でも頭の中で浮かんでくるのは、どうしても神崎さんの顔ばかり……。こんな俺を好きって言っているのに。


「……ごめん、なさい」


 これしか言えなかった。





 ☆






 俺は先輩を振った、二度も。

 その事ばかり考えていて、授業に身が入らず怒られてばかりだった。

 そして放課後、俺は手を頬を乗せながら、窓の外の景色を見て小さく息を吐く。


「――崎君、鷹崎君!」


「えっ……あ、神崎さん」


 ぷくーっと頬を膨らませながら、怒っている姿が凄く可愛い。


「お昼休み、どこ行ってたの?」


「……体育館裏」


 俺は悟られないように顔を再び外に向ける。


「もしかして、真冬さんに会った?」


「――ッ、どうしてそれを……」


「それで振ったんでしょ?」


 なんでそこまで神崎さんが知っているんだ……?

 神崎さんは俯きながら、俺の制服の袖を掴む。


「昨日のこと、憶えてる……?」


 俺は必死になって昨日の事を思い出す。でも色々ありすぎたせいで何の事を指すのかまでは分からなかった。

 そんな俺を見てか、神崎さんは意を決したような顔でこう言った。


「鷹崎君、私は貴方の事が一人の男の子として好きです」


「えっ……」


「返事は今すぐじゃなくていい……それじゃっ!」


 神崎さんは満面な笑みを浮かべて、教室を出た。

 俺の事が……好き……?その言葉だけが、ずっと頭の中で何度も何度もリフレインして、神崎さんの顔が離れずにいて、思い出す度に顔が熱くなり、鼓動も速まった。

 胸が苦しく感じて、息遣いまで荒くなり、俺はおかしくなった。


「~~っ!何なんだこの変な感覚は……」


 俺は一人教室で悶え続けていた。

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