第15話

 さっきまで笑ったりしてたのに、今は胸が痛い。


「鷹崎君……」


 また心配掛けちゃった、気付かぬ内にまた変なこと言ったんだろう。


「そんなことない、幸せになっていいんだよ?」


「神崎さん……」


「あとごめんね、変なこと言っちゃって……勉強しよ?」


 神崎さんは晴れやかに笑って、笑顔で俺を励まそうとしているのが伝わり、涙を拭い俺も笑顔になる。


「ありがとう」


 心の何処かでその言葉が暖かく感じていて、嬉しかった。






 ☆






 あれからしばらくして、疲れてきたので一息つこうとした時だった。夕方を知らせる音楽が鳴り響いた。


「ってもうこんな時間?!帰らないと怒られちゃう……」


 そっか、神崎さんは家族居るんだ……。

 でも何故か、今回ばかりは寂しいと思わなかった。


「じゃあまた明日、明日は必ず学校行くから」


「うんまた明日」


 お互い控えめに手を振り、神崎さんは自宅に戻ってた。

 参考書等を片付けて希海さんが作り置きしていた夕飯を食べ、食器類を洗い終えた後、俺はお風呂に入って今日の事を思い返していた。


「幸せになっても良い、か」


 今までなら絶対にそんなこと言われなかった。

 疫病神扱いされて続けて、当時は身も心もボロボロで、施設から学校に通わなければいけないほどだった。

 その施設先でも一人で生きてきたから、人の優しさというものを知らなかった。


「……それにしても神崎さん、何であそこまで優しくしてくれるだろ」


 理由は分かっても、意図が分からなかった。

 一応好きとは言ってくれたけど、どういう意味なのかもいまいち分かっていないのが現状。


「明日になれば分かるか」


 俺は風呂場から上がり、パジャマに着替え明日に備えて就寝するのだった。





 ☆





 翌日、普段通りの朝を迎えて学校に行く支度をしながら朝御飯を食べているとインターフォンが鳴り響いた。

 誰かと思えば、神崎さんだ。


『おはよ鷹崎君』


「おはよ神崎さん、すぐ行くね」


 俺は鞄を持って玄関で待つ、神崎さんの元へ向かう。


「ふふっ、もうすっかり元気だね」


「お陰さまでなんとか」


 だけど、この言葉を気にお互い無言になり神崎さんに至っては顔が少し赤かった。

 手を伸ばしたと思えば引っ込めたり、引っ込めたらと思ったら伸ばすその繰り返し。

 手を繋ぎたいのかな?と思い、聞いてみた。


「神崎さん、手」


「え……あ」


 神崎さんの手は思った以上に小さくて、綺麗で力を入れたら折れちゃいそうなぐらい細かった。

 凄く嬉しそうな顔をしていて、俺も嬉しくなる。


「いこっか」


「うんっ!えへへ」


 ドクン――まただ、でも昨日のあの時は違ってきゅーっとなって暖かいやつのだ。

 神崎さんの温もりを感じるせいで、俺の顔はみるみるうちに熱くなっていく。でも嫌じゃ、ない。

 むしろずっとこうしていたいと思うほどだった。


「……ねえ鷹崎君」


「な、何……かな?」


「今日の放課後、話したいことがあるんだ……」


「わ、分かった……放課後、ね」


「じ、じゃあ私先に行くから!」


「あっ……」


 握っていた手が離れていき、神崎さんが離れていく。

 俺はさっきまで握っていた手の感触がまだ残っていて、手を握ったり開いたりしてた。

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