第11話

 嫌な事を思い出して泣き疲れた俺は、真っ暗な部屋の中で目を腫らしてベッドに寝そべっている。

 先輩に突然別れを切り出され、情緒不安定になった。


「……やっぱ俺は幸せになっちゃいけないんだ」


 このような思考に至った原因は、幼少期に起こった事件とその後の人生。

 幸せを感じるとその後に不幸になってしまう体質だと幼い頃に悟ってしまった。


「父さん……母さん……」


 逢えるなら逢いたいけど、それは決して叶わない。もうこの世には居ないのだから。





 ☆





 先輩に別れを告げられた翌日、俺は学校を休んだ。

 学校には体調不良と連絡して自室に籠り、塞ぎ込んでいるとインターフォンが鳴り響いた。


「翔太君、今日はどうしたの?学校休んでるって聞いて驚いたよ?」


 この声は……希海さんだ。でも俺は布団を大きく被って部屋のドアに背を向けた。

 ガチャリと開き、希海さんが近づいてくるのが分かった。


「……何か嫌なことでも思い出しちゃった?」


「はい……」


「そっか……辛かったね、今日はお姉さんが落ち着くまでずっと傍に居てあげるから」


 布団越しとはいえ、優しく抱き締められた俺は、再び涙を流した。希海さんの優しさが俺の心を埋めてくれた。


「ううっ……!」


 突然の両親の喪失による疎外感、孤独感、絶望感を抱きながら希海さんに甘えた。


「きゃっ……!ちょっと翔太く……わっ!」


「お姉……ちゃん!寂しい……よぉ!!」


 俺は再び号泣しながら、希海さんに飛び付くぐらいの勢いで抱き着いた。

 床には倒れなかったけど、ちょっとだけ柔らかい感触が伝わってきた。でも希海さんは気にせずによしよしと言いながら、まるで我が子をあやす母親のように撫でてくれた。


「何があってもお姉ちゃんだけはあなたの味方だから」


 俺はそのまま泣きじゃくって落ち着くまでずっと涙を流していた。





 ☆





 私は先生からしょうくんが休んでると聞いた時、真っ先に先輩の事が気になって屋上に向かった。

 昨日まであんなに仲が良かったのに、二人の間に何かあったと思ったからだ。


「……あっ、なんだ神崎ちゃんか」


「先輩、昨日何かありました?」


「まあね……神崎さん、貴女鷹崎のこと好きでしょ?」


「―――ッ!」


「やっぱり、あの時我儘言うんじゃなかったなぁ」


 先輩は無理矢理笑う、ただ私は図星をつかれたことせいで冷静で居られなかった。


「……どういうことですか」


「単刀直入に言うね……正々堂々と勝負してはっきりさせない?同じ相手に惚れてるもの同士で」


「でもそうなると希海さんはどうなるんですか?あの人も多分好きですよ?鷹崎君の事」


 先輩はそれも考慮して言ったのか、元々私達だけに言うつもりだったのか、そもそも知らなかったのかは先輩の顔を見ればある程度は推測出来た。


「……そうよね、あの人に一番心開いてるものね」


 私達にはない、絆という名の希海さんの過保護な態度は少々胸が痛んだことがあった。

 ずっと一途に想い仮恋人同士より本当の恋人を望む先輩、何があってもしょうくん第一で聖母でファンの人が居るぐらい綺麗で何でも出来る希海さんに対して、私には何もなかった。

 唯一誇れるのは、同じクラスで同じアパートに住んでるって言うことだけ。


「神崎ちゃんも負けないぐらい頑張りなさいよ?手加減はなしだから、希海さんにも昨日そう言ったから」


 そう告げられてぽつんと一人で屋上に佇む。

 宣戦布告にも似た口調で煽ってきた先輩、いや石川真冬さんに負けたくないと思った。


 ここから私の恋心が大きく動いた。

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