第10話
仮とはいえ、先輩と付き合うことになった俺は前回よりも一緒に居ることが多くなった。
一応仲直りをしたのでバイトも再開、頻繁には来れないけど先輩も来店してくれる日も。
あれから数日が経ち、今日は人生初デートの日。
人前に出ても恥ずかしくないような格好で来たけど、先輩に怒られないかな……と不安の方が大きかった。
「やっぱこれじゃ怒られるよな……でもこれぐらいしかないし……はぁ」
独り言を呟き、自分の格好に嫌気を差してると不意に視界を塞がれる。
「だーれだ?」
「先輩ですか?」
「せーかい、うんうんやっぱ想定通りだね」
後ろに振り返ると石川先輩が居て、なんとも美しい服装で思わず見惚れてしまう。
俺がじっと見つめてるせいか、若干頬を赤く染めていた。
「……あんま、見ないで欲しい、かな」
「すいません……!余りにも綺麗だったんで……」
するとボフッと音がなり、耳まで真っ赤な先輩。
「と、年下の癖に……な、生意気……言うな」
「すいません……」
怒らせちゃったかな、なんて思っていたけど先輩の口元は緩んでいて思っている程ではなかった。
俺は先輩と手を繋ぐ、俺からするとは思ってなかったからか驚いた顔をしていた。
「一応デートなんですから」
「そうだね、じゃあいこっか」
俺達は店内へと歩きだした。
☆
店内へと入っていった俺達は、先輩に引っ張られて二階へと上がっていく。
着いた先は服屋で、俺の服を何着か見繕ってくれた。
「うーん……無難なのはこれぐらいかな」
派手ではないけど、ある程度人前に出ても恥ずかしくなさそうな物ばかりだった。
俺はそれを受け取り、試着室に入っていく。
鏡の前に立って着替えると、本当に俺なのかと疑うぐらい似合っていた。
「着替え終えました……って先輩?」
「……えっ?!あ、うん何!?」
「どう、ですかねこの格好」
自分と他人とじゃ、全然違うこともあるから不安になってしまう。だけど先輩はさっきから一向に目を合わせてくれない。
「あの先輩?何とか言ってく――」
そのまま先輩は俺と一緒に試着室に入って、突然抱き締められる。
先輩から甘い匂いがして、俺の心が乱れる。
「……こんな姿、他の誰にも見せたくない」
先輩の手は震えて今にも泣きそうな顔をしていたけど、俺の脳裏に過ったのは何故か神崎さんの笑顔だった。
本当なら抱き締めてあげるべきなんだけど、一度考え出したせいで出来なかった。
「私は今でもあなたの事が好き、でも君はそうじゃない」
「!」
「本当は帰りに言おうと思ったけど今言うね、別れよう?そしてはっきりさせようよ、君が本当に好きなのは誰なのか」
先輩はその言葉を最後にして、俺から離れてそのまま店を後にした。俺を置いて。
俺は着替えて元に戻し、浮かない気持ちのまま色々なとこにふらついた。
☆
店内を散策して数時間、自分の気持ちをずっと考えた。
生半可な気持ちで答えるべきじゃなかったと反省をしながら、近くのベンチに座り、小さく息を吐く。
「あれ、兄さん?兄さんじゃないですか」
誰だっけこの子、そもそも俺に身内なんて……。
「探したんですよ?どうして勝手に出ていったり――」
「ごめん、君は誰?」
本当に誰なんだろ、ていうかなんで俺こんなとこに居るんだっけ……?
俺は謎の少女をその場に残して、独りで家に帰宅。
玄関に入ってすぐのその場に立ち崩れ、叫びにも似たぐらいの声で泣いた。自分の嫌なとこに。
それと同時に思い出したくない過去まで思い出してしまい、俺の脳内は突然狂い出す。
「とう、さ……か、あさ……あ、ああ……あああああああああ!!!」
幼少期にとある事件に巻き込まれて俺を庇いながら死んでった両親、血を流している両親の姿を。
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