第9話

 美少女二人が俺を巡って何やらただならぬ雰囲気を醸し出してから数十分、右側には神崎さんがいて左腕に抱き着いているのが石川先輩。

 さっきからずーっと睨み合っている。


「と、ところで神崎……さーちゃん」


 すると先輩の力が強くなり、頬を膨らませていた。


「何?しょうくん」


「何処か出会ったことあるよね?俺、あんまり憶えてないんだけど……」


 神崎さんもとい、さーちゃんは空を見上げていた。

 俺はその姿を見て、少しだけ懐かしく思えた。


「小学生の低学年だったかな、一緒のクラスで今みたいに暗い顔してたの思い出して」


 確かその頃は施設から親戚が来てて、引き取って貰ったばかりの頃だったかな……。

 当時は慣れる以前に、施設の方に戻りたいぐらい病んでいて親戚の子供が羨ましかった記憶がある。


「四年生の頃にやっと慣れてきたのかなって思って話し掛けた。でも五年生に上がる頃にはもう転校してて、それっきりだったかな」


 だからあの時、何処かで見たことがあるみたいなこと言ってたんだ……。でもどうして今更そんなことを。


「しょうくんが転校した頃からずっと好きだったから、先輩に負けないぐらい」


 さーちゃんは優しく微笑み、俺に好きと伝えてくれた。

 本当はどうしようもなく嬉しかった、けど先輩がそんなこと許すはずもなくて。


「……私だってずっと見てきたんだから」


「先輩……?」


「あなた達みたいに昔からという訳じゃないけど、入学時からずーっと鷹崎の事をここで見てきたんだから」


 先輩のストーカー染みた発言は置いといて、精一杯俺に振り向いて貰おうとして、不器用ながらも想ってくれるその姿勢に心打たれた。彼女達は俺が好きと言った。

 俺はどちらかを選ばなければいけない、でもそれは出来ない、出来ればしたくない。

 俺の初めての友達だから……。


「……まだ友達じゃ、駄目ですか?」


 ダメ元で聞いてみる、駄目なら駄目ではっきりさせるしかないけど……。


「私はそれでも良いよ?」


 とさーちゃんは答えて、また優しく微笑んだ。

 でも先輩はそれをよしとしなかった。


「……私は嫌、君が好きだから」


 先輩の諦めが悪いのはあの時から分かってた事だ、だから俺は何も言えなかった。


「しょうくん、どうするの?本当に付き合っちゃうの?」


 そんな悲しそうな顔しないでよ、自分の気持ちがますます分からなくなるじゃないか。

 でも心の何処かで答えが決まってたのかもしれない。


「……先輩は前に言ってましたよね、一ヶ月でも良いからって」


「!もしかして……」


「その……一ヶ月経っても先輩の事好きに成れなかったらその時は……」


「分かった、これからよろしくね」


 こうしてお試しとはいえ、先輩と交際することに。

 一ヶ月の間で恋心ってものを知る良い機会だと思い、俺なりに頑張ろう。


「おめでとうございます、石川先輩」


「と言ってもお試しだから」


 いつの間にか二人は、仲良くなっていて女性ってよく分からないなと思った。

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