第6話
先輩は何故か俺を抱き締めたまま離れようとしない、子供のように頬を膨らませて俺を睨むその姿が印象的だった。
小さな声でなにかブツブツ呟いていてよく聞こえない。
「むう……でも私諦めないよ、絶対に好きになって貰うからね?」
「だからさっきも……なんですかそれは」
俺は希海さんと一緒に出掛けてる写真を見せつけられ、何も言えなくなった。
というかその写真何処で撮られたんだ?
「断るのはこの人とお付き合いしてるから、なんでしょ?」
「違います、希海さんとはそんな関係じゃない」
「へぇ……この人希海さんって言うんだ?聞くところによるとまるで家族――」
「止めてください」
俺は先輩を睨み付け、引き剥がす。
突然の変貌に流石の先輩も怯み、何も言わなくなり小さくごめんと呟いた。
そしてそのまま俺は屋上を後にする、多少の罪悪感を感じながら。
☆
一人で教室に戻ろうとしたが結局あの場に戻れず、別の場所に行こうとしたが道中に神崎さんと偶然出会ってしまう。
俺の顔を見るや否や、さっき見た暗い表情で視線を逸らされた。
「なんで……ここに居るの?駄目じゃん、彼女さんほったらかしにしちゃ……」
「神崎さん、先輩とは今日会ったばかりでそんな関係じゃないっていうか……」
「……っ、鷹崎君のバカ!」
そう言いながら俺に抱き着き、神崎さんの目には一筋の光が流れていた。胸の奥でよく分からない感情が渦巻いて、気付けば俺は無意識のうちに抱き締め返していた。
それに驚いた神崎さんはピクリと肩を震わせたが、顔が赤かった。
「あっ……ご、ごめんっ!嫌だった……よね」
「う、ううんっ!ちょっと、びっくりしたっていうか……」
お互い無言で顔を赤くしながら神崎さんは顔を俯かせ、俺は顔を逸らしていた。でもこの空気は悪い気はしなかった。
俺はおかしくて突然笑い出した。
「何やってんだろ、俺達」
「ふふっ、そうだね」
神崎さんがやっと笑ってくれた、それだけでも俺は十分嬉しかった。これが友達って奴なのかな……。
しかし俺は何も食べてないからか、ぐうと腹の虫が鳴く。
「ご飯まだなの?」
「うん、いつもこの時間食堂だから……今日は抜きかな」
今さら行ってももう遅い、そう思って俺は諦めようとしたけど、神崎さんによってそれはなくなる。
「お、お弁当……作ってきたんだけど……食べる?」
もじもじしながら上目遣いで問い掛けてくる神崎さんの姿を見て俺はきゅっと胸が苦しくなった。
顔もさっきより熱い……そして何より、神崎さんが一段と可愛く見えたのだ。俺は小さく頷く。
するとぱーっと花が咲いたかのような笑顔で微笑み掛けられて、手を繋がれてすぐ傍の空き教室に入った。
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