第5話
「……そう、じゃあさ、私と付き合って」
先輩は甘い声で俺を誘惑してくる。
ついさっき出逢ったばかりなのに、先輩はどうしてそんなことを言ってくるのか、理解出来なかった。
そもそも好きという気持ちが分からない、ずっと独りだったから。
「どうして先輩と……?ついさっき出逢ったばかりですよね?」
「うん、ちょっと……ね」
先輩は寂しそうな声色で俺に問い掛けてきた。
「私もね、鷹崎みたいに居場所がないの」
「……先輩?」
こんな綺麗なのに俺と同じように居場所がないと言った。
その突然の告白に、俺は言葉が出なかった。
☆
その後俺は教室に戻ると、神崎さんが心配そうな顔で声を掛けてきた。
でも俺は先輩の事で何一つ耳に入らなかった。
午前の授業が終わると、いつも通り神崎さんが声を掛けようするが、その前にクラス内外が騒然としていた。
石川先輩が俺のクラスにやってきて、俺を見つけるとにこやかな笑顔で近付いてくる。
「ここだったんだね、探したよ」
俺の腕に抱き着いて、俺を含めた男子は驚いた。
女子からは黄色い声が上がっていた。ある一人を除いて。
「ま、待ってください!」
「あら、何かしら?」
低い声で先輩は、まるで神崎さんを警戒しているような感じで接していた。
神崎さんはそれに全く臆せず、近付く。
「鷹崎君に何か用ですか?」
「用も何も彼氏に会いに来ただけなんだけど?」
先輩はさぞ当たり前と言わんばかりに告げ、神崎さんから離すように俺を引き寄せる。
俺は今何が起こってるのか、全く理解できずにいた。
そもそも先輩はなんて言った……?
「いこ、お腹空いちゃった」
「え、えと……」
神崎さんは顔を俯かして、その顔が印象的すぎて胸が鷲掴みされたように苦しかった。
☆
再び屋上に着いた俺達は、先輩に問い掛けた。
「先輩……どうしてあんなことを?そもそも俺達付き合ってないですよね?」
すると先輩は今度は真正面で抱き締めてくる。朝同様、俺は先輩の匂いにくらくらして流されて顔が熱くなる。
「気付いたら君の事、好きになっちゃった」
先輩も少し頬を赤く染めていて、今まで見たことがない顔だった。先輩でもこんな顔するんだと。
でも付き合うことは出来ない、まだ先輩の事を何も知らないから。
「……すいません、俺、付き合うとかそういうのよく分からないです」
俺は嘘偽りなく先輩にそう告げると、俺をより一層力を込めて抱き締めた。
先輩は本気なんだというのが伝わってきた。
「一ヶ月でも良いから……付き合って、それでも駄目ならちゃんと諦めるから」
「……ごめんなさい」
心の何処かで神崎さんの可愛らしく笑った顔が、熱く脳裏に過り先輩の思いに答えられなかった。
まだ、自分の本当の気持ちに気付けずにいた。
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