第4話

 俺は素早く自分の席まで移動し、参考書類を乱雑に引き出しに突っ込み、椅子に座ると身体がまるで金縛りにあったかのように動かなくなった。

 それと同時に中学までの嫌な思い出が、走馬灯のように次々と出てきて気付かないうちに息があがっていた。


 それでも神崎さんだけは違った。


「た、鷹崎君……本当に大丈夫?」


「だい……じょぶ……」


 周りの視線が俺に集中しているせいで、嫌なことばかり思い出して変なことばかり考えてしまう。

 と頭では分かっている。

 教室に入る時は皆は決して嫌な目で見てた訳じゃない、神崎さんが後ろから入ってきたから集めてしまっただけ。


 それでも耐えきれなくなった俺は教室から出て、何処か心が落ち着く場所まで無意識に向かっていった。





 ☆






 あんなに明るかった鷹崎君が教室に入った途端、まるで人が変わったかのように暗い顔になっていて胸が苦しかった。

 心配で声を掛けたけど、全然大丈夫じゃなかった。


「本当にどうしちゃったんだろ……」


 原因は分からない。でもある程度の予想はつく、いきなりバイトする時に店長さんからこんなことを聞いた。


『翔太君は今まで独りで孤独に生きてきて、それが元でいじめにあってその時の古傷で極度の人間不信なの』


 私に何か出来ることはないかと思い考えた結果、彼に寄り添うことだった。好き、だから。

 私も鷹崎君のように逃げてきたようなもの、だからある程度は分かってあげられるかもと。


「……っ」


 でも情けないことに足が全く動かず、結局皆と一緒だった。みたいに。





 ☆





 独りになれそうな場所に探して見つかったのが屋上。

 俺はフェンスに凭れながら地面に体育座り、男なのに膝を抱いて啜り泣く。


「君、なーに情けない顔してるの?」


 俺は顔を上げると、そこには希海さんのように綺麗な人が居て思わず見惚れる。


「君、どうして泣いてるの?いじめにでもあったの?」


 俺は横に首を振った、するとその人は物凄く優しい顔をしながら俺の隣に。

 神崎さんと違い、良い匂いがして俺の感覚が麻痺っていく。


「君、新入生でしょ?」


「はい……あの、貴女は」


「私は二年の石川真冬いしかわまふゆ、よろしくね新入生くん」


 晴れやかな笑顔を見て俺はまるで世界が変わったかのような不思議な感覚に陥る、先輩の顔が見れなくなったのだ。

 急に胸が苦しくなり、もっと先輩の事が知りたくなった。


「……翔太、鷹崎翔太、よ、よろしくです……」


「えと……うん、よろしく……そうだ」


 石川先輩は突然俺の後ろから抱き着いてきた。


「せ、せんぱっ……?!な、何して……!?」


 希海さんとは違って、豊満な胸が背中から伝わり顔が熱くなっていく。


「……鷹崎は彼女とか居るの?」


「そんな人、居ない、です」


「そう……じゃあさ、私と付き合って」


 また世界が止まったような感覚に陥った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る