第2話

 時刻は二十時、そろそろ店が終わる時間になる。


「後はやっとくから今日は上がっていいよ」


「いやでも……」


「明日も学校でしょ?私の事なら気にしないで良いから」


 流石にここまで言われたら従うしかない、俺は着替えて先に上がることに。

 店を出るとそこには神崎さんが居て、笑顔で出迎えてくれた。


「鷹崎君、やっぱりここで働いてたんだね」


「なんで神崎さんがここに……」


 スマホを見ても、通知は何も入ってない。


「どこでバイトしてるのかなーって思ってさ」


「そうなんだ……」


 俺達はその後何も言わず、アパートに着いた。

 俺はそのまま部屋に入ろうとしたら、神崎さんに袖を掴まれた。よく見ると顔が若干赤かった。


「えっと……何も言わないの?」


「触れてほしくないのかなって思って……」


「そ、あのさ……!」


 さっきよりも顔が赤くなって、少しだけ目が潤んでて俺を見つめて静かに口を開いた。


「私と友達になってくれないかな……?」






 ☆






「私と友達になってくれないかな……?」


 私こと神崎紗奈は勇気を振り絞ってそう言った。

 今まで自分から声を掛けることが出来なかった私が自分から声を掛けた。今年こそ変わると決めたんだ。


「俺なんかで良いの?」


 鷹崎君じゃなきゃ嫌だなんて、今はまだ言えない……。

 私と同じ感じがしたのと、今私は彼に恋をしているから。


「……うん」


 恥ずかしくて顔を俯かせる。今まで人を好きになったことがないから、どう接すれば良いのか分からない。

 鷹崎君はあのお姉さんとお付き合いしてるのかな……?

 後ろからぎゅっと抱き締めているところを見た時は思わず胸が鷲掴みされて痛かった。


「じゃあ、これからよろしく神崎さん」


 私はこくりと頷いて、手を離し家まで逃げ帰る。

 ドクン、ドクン――高鳴る鼓動が心地よくて、思わずニヤけてしまう。


「今は友達として、距離を詰めないと……!」


 私の恋はまだ始まったばかりだ。





 ☆






 神崎さんと友達になってから数日が経った。

 俺達は日に日に仲良くなっていき、学校がこんなにも楽しい場所だなんて初めて思った。

 そんなある日、バイト中に希海さんから突然こんなことを言われた。


「最近よく笑うようになったね、何か良いことあったの?」


「少しだけ……学校って楽しいなって思うようになってきたんです」


「最近よく来る紗奈ちゃんだっけ?全然構ってくれなくてお姉さん妬けちゃうな」


 俺を弟のように可愛がってるだけなのに、なぜ妬けるのだろうか?よく分からない。

 俺は無意識に壁に掛かってる時計に視線を移すと、そろそろ神崎さんがやってくる頃合いだった。

案の定、店のドアが開く音がした。


「やっほ、鷹崎君」


「いらっしゃい神崎さん」


 神崎さんはいつもの席に向かい、遠くで俺の仕事を眺めるというよく分からないことをしてる。


「神崎さん、注文は?」


「うーん……紅茶とケーキで」


「畏まりました、しばらくお待ちください」


 俺の働いてる姿なんて見て何が楽しいんだろう?

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