世界が変わる日

翔也

第1話

 俺の名前は鷹崎翔太たかさきしょうた、産まれた時からずっと独りだ。

 勿論兄弟も居ないから身内なんて誰も居ない、親戚の家をたらい回しにされ続けて数年が経った。


 俺は地元を離れて、少し偏差値が高い高校へ入学。

 中学卒業と同時に親戚の家から出て、学校近くのアパートを借りて一人暮らしを始めた。

 出ていく際に親戚の女の子に呼び止められたっけ、何を言われたのか憶えてすら居ない。その程度だった。






 ☆







 入学式当日、俺はこれからお世話になるクラスの教室へ向かった。もうそこにはかなりの人が居て、既にグループが出来上がっていた。


 自分の席を見つけて、周りの邪魔にならないよう静かに席につく。

 席は後ろの方で、窓側から二つ目の席だ。


「ふぅ……ここまで来るのに疲れるな……」


 当然俺達は新入生の為、上級生の皆に見られながら教室に来ているのが多数だ。

 ただ殆どの人は知り合いみたいな感じだったので、俺だけが他のとこからになる。


 その際、偶然なのか隣の席の子に声を掛けられる。


「こんにちは、この辺じゃ見掛けない顔だけどどこ出身なの?」


「えーっと……」


「ああ、自己紹介もせずに話しかけてゴメンね?私は神崎紗奈かんざきさな、よろしくね?」


「よ、よろしく……」


 別にコミュ障って訳じゃないが、誰しも初めては緊張するだろう。俺もその一人だ。

 綺麗な黒髪で肩まで伸びていて、出るとこはしっかりと出てるなんとも可愛らしい人だった。


「ん、あれ……どこかで見たような……」


 俺の顔をジーッと見つめる神崎さん、俺は人の顔を憶えるのが苦手でどこで会ったかなんて憶えていない。

 だが先生が来てしまい、俺達は教卓を見た。






 ☆






 入学式が終わった俺は、一人で参考書等を持ち帰っていた。


「おっも……」


 一応バイトをしてるけど、それ以上に重かった。

 すると後ろから声を掛けられる、この声は神崎さんかな。


「やっと……追い付いた……速いよ……」


「どうしたの?神崎さん」


「ちょっと鷹崎君の事が気になって追いかけちゃった、お家ってこの辺なの?」


「すぐそこのアパート、神崎さんもこの辺?」


 すると神崎さんは驚いたような顔をしていた。


「私もこのアパートなの!良かったぁ……同じ学校の人が居て……」


 そうだったのか、全然気付かなかった。

 数分後お互いの部屋に着いた俺達は、連絡先を交換し合って俺は制服から私服に着替えてバイト先に向かった。






 ☆






 バイト先は近くの喫茶店で、常連さんしか来ない隠れ家みたいな感じだった。


「あら、入学式もう終わったの?」


 声を掛けてくれたのは上村希海うえむらのぞみさん、この店の店長で、のほほんとした雰囲気をしているが意外としっかりとしている優しい女性。

 ただ問題なのは俺には甘いということだけ。


「はい、終わってすぐ帰りました」


「もうちょっと楽しんだら良いのに、お姉さんそこまで寂しくないよ?」


「残ってもやることないので……それじゃ着替えてきます」


 俺はこの店の制服に着替えて、仕事に取り掛かる。

 といってもそこまで人は来ないから、のんびりと待つだけだが。


「どう?学校は」


「……なんとかやっていけそうです」


 心配掛けさせてはいけないって分かっているのに、嫌でも思い出してしまう。幼い頃の記憶。

 誰も居ないことを良いことに、店長に抱き締められる。


「辛かったらお姉さんに言いなさい、力になってあげる」


「はい、その時はお願いします」


 音を響かせながら扉が開く、さて仕事だ。

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