きっかけって重要?

第1話 始まりの音が聞こえない

 後ろが死体、前も死体。すなわち周りが死体。これ、なーんだ?

 そう、答えは戦場。

 

 答えが当たった人は、見渡す限り死体が転がっている戦場から俺を

 引き上げてくださーい。いや、ほんとにまじで、おねがいします。このまま敵陣に突っ込むと、周りで転がっている連中と同じ目に合っちゃうから。死体デビューしちゃうよ俺。


 おっと、自己紹介し忘れてた。普通、名前が分からないありふれた顔のやつなんて、将棋の歩兵ぐらい区別つかないからなー。


 え、将棋の歩兵はまず区別しないって?細かいことはいいんだよ。

 

 俺の名前はライト ウィッシュ。つい、こないだまで学生の身分だったが、最近になって、決まりが変わって、俺みたいな十六歳のガキでも戦争に行けるようになった。


 そのおかげで俺の青春は、花びらみたいに跡形も無く散ってしまった。くそ、せっかく可愛い女の子と仲良くなれるチャンスだったのに。まあ、元から出会いなんてないんだけどね。


 でも、いくら兵士の数が減っているからって、学校長が全校生徒を志願させるとは思わないじゃん。そりゃー、俺だって最初聞いた時、学校長を恨んだよ。


 まじで、「あの校長、校庭にパンツ一丁にして宙吊りさせてやりたい」と、思ったし。いや、おかしいじゃん。なんでおれの輝かしい学生生活の一ページに、戦争という不幸ワードを入れなきゃいけないの?


 え、元から不幸? う、うーん否定できないのが辛い。


 まあ、結局校長には、いつも飲んでいるお茶に便秘薬入れただけなんだけどね。その後、三日は学校に来なかったけど。ざまあ!

 

 そうして無理矢理、志願された俺たちは増援部隊として来ている‥‥だけども、さっきまで戦場が追い込まれていたせいか、死体が大量に転がってる状況に俺のクラスメイトが騒然としてる。


 学校で学んだ、戦争についての知識があっても実際に見るとかなりキツい。何人かの生徒は吐いてるし。そうじゃない者は、友達と体を寄せ合っているのが多い。


 え、俺? 俺は一人でぼけーっと立っているよ。友達いなくて悪かったな!

 まあでも俺は孤児院育ちだから、戦争障害者の子供とか見たことがあるけど、そういう経験が無かったら俺も多分吐いているだろう。


 正直言ってこんな状況でクラスメイト、いや、うちの学校の奴らが増援として行くのはかなり無意味に違いない。と言うか下手したら、火に油を注ぐ状況になりかねない。


 だって無理じゃん。人ひとり殺したことがない人間がいきなり戦場に行って、なにができるんだ。おまけに今から戦場で戦う相手は、魔法使い。


 あれだよ、箒に乗って空中から魔法打ってくるやつ。言うて、箒に乗るのは上級職の魔法使いだから、ほとんどが人間のように立って、杖を使って攻撃してくるらしい。

 

 だとしてもだよ。そんなのと俺、戦うの?木剣での対人練習すら、一ヶ月ちょっとしかやってない学生が?

 カマキリが車に勝負仕掛けるようなもんじゃん。敵に会う前に魔法でやられる未来しか見えないんだけど。


 俺、始まったら、匍匐ほふくしながら、後進していこう。だって死にたくないし、痛いのも嫌だもん。アイ、ヘイト、ペイン。今から、作戦を説明するらしいけど、こっそり帰れないのかな、これ。


 

 二十分ほど待たされた。正直言ってまじで長かった。あれだよ、カップラーメン、六回作れるよ。それとよく見たら、警備の人がいて帰れないようなってたわ。勝手に拘束するのは、犯罪だー。


 そんな中ふと、上を見上げると、軍服を着た指揮官らしき人がマイクを持っているのが見えた。


 もうね、それを見た瞬間、いろいろと文句があったけど全部吹き飛んだわ。


 


  






 だって、あんな目つきがいかつい奴が、ピンク色の可愛らしいマイクを持っていると思わないじゃん。 

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