雪が降り雨が聞こえない
柄山勇
第0話 絶望の予兆
まるで地獄のような街だ。
そう誰かが言った。
少し前まで、笑顔で笑い合っていた家族も、今となっては目が死んでいる。
目だけではなく、全身が、命そのものが死んでいる者も少なくない。誰もが思考を閉ざしていた。
嘘だ
誰かが言った。
こんなの現実じゃない
誰かが叫んだ。
だがそんなこと、叫んだって無駄だ。どれだけ泣いても、どれだけ救いを求めても、何も変わらない。いつだって現実は残酷で、みんな目を背けたがる。
現実を見つめる者など、指で数えられる程しかいない。
そんな誰もが明け暮れてたその時.....
お、俺は悪くない!
ふと耳澄ますと、そんな声が聞こえてきた。
それに続いて何人かの人間の声が、口々に同調し始めた。
そ、そうだ、俺たちは悪くない。
その声を聞き、閉じていた人々の思考が動き始めた。やがて徐々に声が重なり、大きくなるにつれて、人々の瞳の中に熱い炎が輝き出した。
俺たちは悪くない。
私たちは悪くない。
そんな声が町中に広がり、ざわめきが合唱のようになっていた時、
あいつらが悪いんだ!
一人の男がそう言って、西の大陸を指さした。
その瞬間、人々の心の中には、嫉妬と憎悪の塊が生まれ、瞳の中の熱い炎はさらに輝き出した。
そう、それこそが
終なき戦いの始まりだったとは、誰も知る由がない。
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