第14話:告白

 そして、とうとう約束のときがやって来た。

 昼休み。

 それを伝えるチャイムが校舎中に鳴り響く。

『キーンコーンカーンコーン』

 約束は昼ごはんを食べてから、と言われていたので、まずは昼ごはんを食べる。

 もぐもぐ、と口を動かす。緊張しているのかその口の動きはいつにも増して激しかった気がした。

 そして、昼食を食べ終える。

 俺は漫画の入った紙袋を持つと、すぐ教室を出る。

 クラスメートが「陸人そんな急いでどうしたんだ?」とか、訊いてきたが、丸々無視してしまった。申し訳ないから後で謝っておこう。

 どうやら、雅人まさとそらももう食べ終わったようで、1組の目の前で待っていた。


「頑張ってこいよ!」「ファイト!」


 2人からの応援に俺は笑顔を向けて「おう!」と力強く答えた。

 そして、俺は約束した昇降口へと向かう。

 階段を1段だけ降りる。

 だが、その階段を降りる時間も今の俺にとってはとても長く感じた。

 少し汗まで出てきた。

 いかんいかん。こんなことで緊張していたら先が思いやられるぞ。

 俺は深呼吸をして少し落ち着く。そして、再び階段を降り始める。

 1段、1段、丁寧に飛ばしたりすることなく降りる。

 そして、階段を降り終えた。

 1階に着いて、右手にすぐ昇降口がある。

 だから俺はそこら辺をうろうろして花音かのんを待つ。

 まあ、昼飯は早めに食い終えたからまだ花音は来ない。花音どころか俺以外の生徒の姿が1階に見えない。

 そして2分、3分、4分、5分、と待つと、


「すみませんー!待ちましたか?」


 可愛らしいセーラー服に身を包んだ花音が俺の前に現れた。


「いや!全然待ってないよ!俺も今来たとこ!」


 俺がそう言うと、花音は安心したかのようにふう、と一息つく。

 そして、俺は先生にバレないために紙袋に包んだ漫画をその紙袋から取り出し、花音に渡す。


「はい、これ約束のやつ」


「わー!ありがとうございます!」


 花音はにこっとスマイルを浮かべた。俺はその笑顔に心が踊らされながらも、俺もスマイルを返す。


「なんかこうやって先生にバレないように紙袋に包んで内緒で漫画を渡し合ったりするのってハラハラして楽しいですよね!」


「確かにそれわかる!スリルっていうのがあっていいよね!」


「ほんとそれなです!しかもそれが男女間で行われていると、なんか青春って感じがしませんか!」


 俺は思わず、頬が赤くなる。

 なんだそれって、俺が主人公で、花音がメインヒロインっていうことを言っているのか?

 2人の青春。

 この『青春』という言葉に『2人』という単語が付け足されると、大体の人がカップルを連想するはずだ。

 なぜなら、青春という言葉は『片思い』という意味も当然含んでいるが、それに『2人』を付け足すことで、2人の心情の一致、すなわち、『両思い』か『付き合っている』という2つの選択肢しかありえなくなるからだ。

 そして今回花音が言った『青春』というのはもちろん俺と花音の2人での青春のことを示している。

 だから俺はその言葉がめちゃくちゃ嬉しかった。


「ああ!青春だな!」


 だから俺は喜びながら、笑顔で花音にそう返した。

 そう、これは青春だ。

 いつものどこか物足りない学校生活じゃない。青春という最高のメインディッシュが追加された順風満帆な学校生活だ。

 だから、俺はこの青春を最大限に楽しむ。そして、この可愛いヒロイン、森上もりがみ花音を彼女にする。


陸人りくとってこの昼休みまだ暇ですか?」


 俺が決意を新たにしていると、花音が俺に上目遣いをしながら訊いてきた。

 ······いやまじでその上目遣いは反則······。

 まあ、身長差30センチくらいあるから目を見て話すために上目遣いになっちゃうのは仕方ないのかな。

 そんな上目遣いに俺の心はアタックされながらも、花音の質問に答える。


「暇だよ!」


 すると、花音は顔中に笑顔を浮かべる。


「やったー!じゃあ話しません?」


「お、おう!いいぜ!」


「私、陸人のこともっと知りたいからたくさん質問してもいいですか?」


「もちろん!」


 俺のことをもっと知りたいなんて······。

 俺は表に照れていることを出さずに努力している。

 だが、さすがに今のは照れが出てしまったかもしれない。

 まあ上目遣いの時とかも多分、ちょくちょく照れてる所表に出ちゃっていると思うけど。


「好きな食べ物ってなんですか?」


「麻婆豆腐!」


「好きなアニメはなんですか?」


「異世界やり直しライフ!」


「好きなスポーツはなんですか?」


「卓球!」


「好きなお菓子はなんですか?」


「チョコビスケット!」


「女の子のタイプはなんですか?」


「君みたいな子!」


「······えっ!」


 あれ、待って。俺今どさくさに紛れてちょっとやばめなこと言わなかった?

 うん、言ったよな。間違いなく言ったよな!?

 うわ。これ花音に引かれた。絶対引かれた。はい、ここで俺の青春ジ・エンドですね。はい、終わりました。さようなら。

 めちゃくちゃ悲観的になっている俺。花音の方を勇気を出してチラリと見る。


「――っ!」


 そこには頬を真っ赤にした森上花音がいた。

 何も引いている様子もなく、照れているように頬を真っ赤にした彼女の姿だけがあった。

『どくんっ』拍動する。

 これって脈ありなのではないだろうか。逆にこんなに照れて脈なしと考えていいのだろうか。

 いやいや、だけど楽観的に考えるな自分。

 その楽観的な考えで何回自分が苦しんできたと思っている。だめだ、だめだ。

 これは間違いなく花音に引かれている。そう思うのが俺が傷つかない1番の方法のはずだ。


「ちなみに私のタイプは――」


 だが、俺にそんな悲観的な思考はやはり出来なかった。なぜなら――


「陸人先輩みたいな人ですよっ!」


 そう言われてしまったからだ。もうこんなことを言われて脈なしと考えろなんて無茶だ。しかもなぜ今回だけ先輩付けなのか。まさか、俺が先輩って呼ばれるの好きってわかって呼んでいるのか?

 まあ、とりあえず、1つ言えることは、こんなこと脈がないと言わない。言うわけが無い。

 俺は花音と真剣な眼差しで向き合う。そこで、本当に脈ありかだけ確認して告白する。


「んじゃあ俺と付き合ってくれるか?」


「もちろんですっ!」


 返事は即答だった。

 こんなにも上手くいくなんて思わなかった。正直、かなり驚いている。

 出会ってまだ数週間の仲。だけど俺たちは恋人になった。

 お互いに笑いあって、楽しんで、遊んで、青春を共有するパートナーとなったのだ。


「これからもよろしくな、花音!」


「はい!こちらこそです!」


 そしてその可愛い後輩、森上花音、否、俺の彼女はにこっと可愛い笑顔を俺に向けてきたのであった。

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