第7話:別れ

 俺が仲良しグループに入っておよそ1週間後のことである。


雅人まさとどうしたんだ?」


 俺は雅人から学校帰りに相談したいことがある、と言われていた。

 険しく、暗い表情をする雅人。そこからしていい知らせは来ないということを俺の本能が察した。


「別れた」


「え?」


 急すぎて情報の収集が追いつかない。

 数秒した後、俺の頭は理解に達する。


「もう好きじゃないって率直に言われた」


 とても暗そうにする雅人につられ、俺の表情も暗くなる。そりゃそうだ、確かに雅人が先にリア充になったのは悔しかった。だけど雅人が落ち込んでいるのだ。友達の不幸を笑う友達なんているのだろうか。

 俺は1つ1つ慎重に言葉を選ぶ。


美歩みあが好きじゃなくなった原因とか聞いたか?」


 静かに訊くと、雅人が静かに話し出す。


「休み時間に美術室でそらとかといたんだけど、そんときにあいつらが俺のズボンの中、股間あたりにペンを入れてきて、それで俺もそのノリに乗って色々と気持ち悪いことをしちゃって······」


「まじかよ······」


 色々と、という部分は大体わかるから聞かないでおこう······。

 にしても、雅人も天とか俺みたいな下ネタいけるタイプなのか······。本当に男子は揃いに揃って変態である。

 だけど謎だ。本当に好きだとしたらそうゆうところも全て許容するはずだ。ましてや美歩なんて下ネタ大好き一軍女子じゃないか。そんなことで別れを切り出すとは俺には少し考えにくかった。


「本当にそれが理由なのか?」


「うん。それで女子が色々と俺のことで美歩に言ってくるらしくてそれが嫌だって······」


 あーなるほど。

 恐らく美歩が雅人と別れたい理由としては自分を守るためだろう。雅人と付き合っていることで、自分の株も下がってしまうと考え、それで別れを切り出したのだ。

 にしても女子って怖いな。男子のこと裏で色々と言っているのか。

 恐らく今回については『あいつあんなことしててまじキモくない?』『それなー!』『美歩あんなのが彼氏でいいのー?別れたらー?』みたいな感じの会話に美歩が耐えれなくなった結果だろう。


「はあ、あんな変なことしなければよかった······」


「本当にそれな」


 落ち込む雅人に容赦なく言葉を浴びせ、頭を軽くチョップする。

 内心、雅人に少し呆れる。だけどこんな変態だけれどこいつは嫌な奴ではない。それだけはこの俺だからこそ知っている。

 雅人は明るい。だから暗い顔はさせたくない。

 俺は喝を入れるかのように雅人の肩を強くパーで2回叩く。


「まあ、雅人ならコミュ力とかもあるから大丈夫だろ。美歩のことはすぐ忘れられないかもしれない。だけど次を見つければいいさ。雅人ならいけるよ!」


 俺は明るい雅人が好きだ。

 いつも笑顔で、まだ関わってあまり経たないけどすぐに仲良くなれる雅人の明るいところが好きなのだ。

 逆に、暗い雅人は嫌だ。暗いなんて雅人らしくない。

 彼女に振られたらくそほど落ち込む。ましてやたったの1週間。そんなのとても辛い。

 俺も1度彼女に二股をかけられたことがあるので似たような感情を知っている。

 だけどずっと落ち込むわけにはいかないのだ。ただ、ずっと想って落ち込んでいたら自分の精神が病むだけ。そうゆう時は友達に頼るのが1番なのだ。そして、今俺は頼られているのだ。

 だから今俺は雅人の心を支えるべきなのだ。

 俺は頬に涙を伝らせている雅人の体をそっと包む。


「だから大丈夫だ。雅人は明るいから彼女なんてすぐ出来る。そんな気にするな!」


 肩を2度叩く。

 10秒ほど経った後、お互いに抱き合っていた体を雅人が先に外す。


「ありがとな。陸人りくとのおかげでちょっと元気出た」


 涙を相変わらず流しながらも、感謝を俺に告げる雅人。

 雅人は自分の腕で涙を強く拭き取る。

 そして、自分に喝を入れるかのように、頬を2回両手で強く叩いた。


「よーし!俺も可愛い子と遊んで、いつか可愛い彼女作って美歩に『俺こんな可愛い彼女いるんだぜ』って自慢してやる!」


「おう!美歩に目にもの見せてやれ!」


 とりあえず、調子が良くなった雅人。

 当然、まだ落ち込んでいるとは思うが俺のおかげで少し元気になったのなら本当に良かった。

 やっぱりいつもの明るい雅人が俺は大好きだ。


「んじゃあもうそろ歩き始めるぞ」


「おう!」


 そして、俺らは今日も帰り道を歩く。

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