肉まんを食べ損ねた英雄は魔法を使う
「あ、あの、先生そろそろ…」
「んー?おっ、そっちのもいいな、試着してこい」
「いやさすがに、これ以上はお金…」
「いいから着てこい。」
「はい…」
病み上がり後、しっかり寝て回復した私は何故か先生に買い物に連れてこられていた。
いやなぜ???
って思ったけどよく考えたら私、まともな服持ってなかったし、先生が魔法で作るのもかなり労力使うみたいで獣耳と尻尾は隠して服を見てるんだけど、なぜこんなに試着を…一応理由を聞いたけど適当な服じゃだめらしい。いやなんで…?
まぁとにかく着替えよう。
今、手に持っている服は私が普段着るようなワンピースではなく、淡く桃色に染められて長袖の部分だけが着物のようになり東方の花(ーー先生曰く桜って言うらしいーー)が刺繍されたブラウスと夜空みたいな所々キラキラ光る石が縫いつけられた紺色のロングスカート。
そして焦げ茶の編み上げ式ショートブーツ
「ん……どう…?」
「………」
どれも着たことのない服で緊張する…服に着られるってこういう時に言うんだろうな、現に先生も黙ってるし
「先生?」
「………?あぁ、悪い悪い。すごく似合ってたからな。すみません、この服に会う上着も買いたいんですが」
「それならこちらの…」
(ま、まだ買うの…)
ていうか先生どんだけお金もってるの…?さっき見たら0って文字が少なくとも4個はあった気がするんだけど………見なかったことにしよう。
「やっぱりそれが一番にあってるな」
「それはどうも…」
結局さっき来た服をそのまま着て上に一応耳が見えないようにフード付きの厚手のコートを着て先生の隣を歩いてる。
「人混みだし一応、ほら」
「ふぇっ?」
私の目の前には先生の暖かい手がある。つまり……
頬が熱くなるのを自覚しながらも先生の手に自分の手を重ねる。
「繋いだ手、放すなよ?探知魔法使えば一瞬だが探すのは面倒だしこの人混みだ、悪い人がいてもおかしくない」
「はーい」
悪い人って言うのは多分獣人が堂々と街中を歩いてるのをよく思わない人のことだと思う。
それに狐族は獣人の人にすら悪く思われてるしね………ん…?
無意識的に風が連れてきたいい匂いがする方を鼻でくんくんと匂いを嗅ぐ
お肉、と…あまじょっぱい匂い…
「花白?肉まんが気になるのか?」
「にくまんってなに?」
「豚肉とタケノコとかの野菜を具材ーーこれを餡って言うんだが、それをパン生地みたいなので包んで蒸す料理だな。最近だと餡子入れたりトマトケチャップやチーズ入れたヤツもあるが」
「美味しそう…」
「んじゃ買うか。ちょうど昼時だし」
!!!…いやでも服もたくさん買ってもらったし…さすがにやめておいた方がいいんじゃ…
少しだけ下を向き握っていた手を緩める。
「花白?………っ、おい!」
「ふぇっ?」
手を離しかけた瞬間。先生に無理やり抱き上げられ、一瞬悲しそうな目をした先生の手が軽く首にあたり…すこん、と私は眠りについた。
「初手から何も悪いことをしていない人間に対して超反射を要求するような静謐性に特化した中級魔法を撃つことはないんじゃねぇのか?」
「ちっ…バレたか」
裏通りへと寝ている花白を巻き込まないように移動し、攻撃した男達を睨み付ける。どちらかと言えば俺の手が間に合っただけいいほうだ。寝かせてるんだし…少しぐらい本気を出しても大丈夫だろう。
「一応聞くが、お前らは俺の生徒に手を出すっていう事の意味を理解してるんだよな?」
溢れ出そうになる殺気を抑えながら両手を軽く上げて男達を見る。
「全員、獣人の奴隷商売,強姦,詐欺、その他もろもろやって来たんだろ?よくそんなお粗末な妨害魔法でバレなかったな。難儀なもんだ」
「「「!?」」」
「まぁそんなことは今はいい。花白を、襲ったことを謝れ、今すぐ。話はそれからだ」
「………殺す」
そういうと片手剣を抜き放ち、剣を構える。周りの奴らも武器を構えたり魔法を準備しているのが分かり、わざと煽るように肩をすくめてみせる。
「ったく…いいぜ、どうせ口だけだろうがな」
「舐めやがって!!」
一人の前衛が突っ込んで来るのがわかり、初級雷魔法を展開し前衛、後衛を分断させ目の前に来ていた剣を軽く避け魔法を纏わせた手刀で剣身を両断し、跳躍。
「ふっ」
「!!!!」
咄嗟に防御しようとした魔法士を抜いていた愛剣の柄で殴り気絶させる。
「ふむ。まだ敵意があるのか?…ったく、めんどくせぇな」
「へ?」「は?」
瞬時に前傾姿勢をとり最初に自信満々だったやつ以外のやつらとの間合いを詰め反応できてない男達の防御魔法を貫通し、拳を振るう。
「さて、と。残りはお前一人な訳だが…まだやるか?」
「何故、獣人なんて人擬きを守る!こんな奴ら奴隷として、道具として使ってやってるんだから俺たちはなにも…!」
自分のなかで我慢していた何かが切れた。
「別に俺は世界のために自分を捨てた聖女なんかじゃねぇ。ただの偽善者という自覚もある。だがな?……お前らが、人擬きだと嘲笑い、獣人だという理由だけでなにもしていない俺の生徒を傷つけかけたことに変わりはない。覚悟は…できてるよなぁ?」
殺気が溢れ、自分が笑っているのを自覚するも-止められない
渦巻く純白の魔力が目の前を照らし、街中の草木を荒々しく揺らし、全属性の火の粉や水しぶきなどがなにもしていなくても空中に舞う。
男が荒い息をしつつも両手で剣を握っている。捨て身だ。
それなら俺も……いいよな?有栖。
ずっと抜いていなかった愛剣『
「さぁ、こい。お前の全力を俺が全部真正面から粉砕してやるよ」
正面から突っ込んでくる。ふむ?冒険者でも一部のものしかできない属性魔法を剣に付与し、威力を高める魔法剣か。しかも雷属性。面白い
「うおおおおおおおっ!!!!!!」
雄叫びを上げながら全力で斬りかかってくるのをなにもしていない剣で受け止める。
「!?そん、な。これを受け止めるのは英雄ぐらいの実力じゃないと…!!」
「あ?お笑い草だな。英雄なんかじゃなくたって受け止めるか受け流すかぐらいはできるだろ。………終わりだ。」
剣に魔力を込め殺気をすべて解放し、宣告する。
「かの聖女の兄として命ずる。平等に接するべき獣人のしかも子供に対して攻撃をした。それは完璧な「
「「世界樹の契約」…?なんだ、それは!!」
質問には答えない。答える必要はない
「だが、安心しろ殺しはしない。ただ…永遠に死ねないまま、蔑まれ苦しみ続けろ。」
吹き荒れる純白の魔力が一気に膨れ上がりどす黒くなっていき…六翼もの漆黒の翼が顕現。
「『時よ進め 悪魔の翼で 永遠の地獄を 顕現させよ』」
「『
最後の慈悲でしなくてもいい闇属性高等魔法の威力を増幅させる詠唱をし後ろをむく。絶望し、黒猫に呑み込まれ穴に堕ちていった男達の顔が一瞬見えたが無視し、そばにあった住宅地の影で寝かせていた花白を抱き抱え、表通りへと戻っていく。
「そういや、肉まん食べたそうにしてたな。起きるまでに買っておいて公園とかで食うか」
完全な自己満足だが、お前を守れたと、思っていいだろうか?
幸せそうに俺の腕の中で眠る白髪狐の少女を撫でながら、殺気を掻き消して-俺は
元英雄は
肉まんを片手に笑っていた
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