犬の老人と魔物のハンバーガー
甘く香ばしい匂いとお肉が焼ける匂いがする
あとは揚げ物みたいな油の匂い。えっと、先生に寝てろって言われて、それで…どうしたんだっけ?
「ん…ん…」
「おっ、起きたか?」
「おはようございます…?」
やっと意識が覚醒してきて見えるのは明るめの照明とクリーム色の壁に清潔な床。薄緑色のソファと先生の膝枕。
窓際の席で港の近くにある為、景色は海が見えて凄くいい。
いつも寝泊まりしてる大樹じゃなくて、飲食店だよね、ここ…
「ちょうど昼時だったからな、先に飯食ってたんだ。
笑顔でメニューを見せてくる先生の目には「さっきのことは聞いてくるなよ?」と書かれてる。普通にご飯食べてるってことはどうにかなったんだろうし、聞くなって言われたら聞かない。大事な事だよね
「でも…私獣人だし…」
「?周りみてみろ」
周り?って…ここの店員さん、みんな獣人だ。お客さんもほとんどが獣人だけど、ちらほらと人族もいて壁もなさそうに話したりしてる。
「ここならお前も獣耳と尻尾を隠さずに飯食えるだろ?」
「…!ありがとう」
「どういたしまして、それで?お前ハンバーガーは食べたことあるのか?」
「ハンバーガー?」
机の上にあるパンの間に野菜とお肉が挟まったもののことかな?すごくいい匂いがする。
「ふむ。食べたことないなら…ほら」
「?」
「1口やるよ、多分気にいると思うぞ?」
控えめに私の目の前に持ってこられた食べかけのハンバーガーというものにかぶりつく。「!!!」
前に食べてた固くなって黒くなったパンとは程遠い柔らかいパンは軽く焼いてあってゴマが上に乗ってる。
主役のハンバーグは食べたことのない魔物からとれたお肉に香辛料がたっぷり入ってる。(ここの店主さんが冒険者とかじゃないとこんなにいいお肉は仕入れられないらしい。)
そこにヨーグルトのさっぱりしたソースが合わさって…酸っぱめのキュウリ?みたいなものも入って、なんか…なんか…!
「ふっごくおいしい…!」
「飲み込んでから話せって…美味しいのは知ってるから。ほらオレンジジュース」
「んくっ……えへへ」
このご飯は美味しいしメニューにある物もどれも美味しそうだから迷う…
「ゆっくりでいいからな、量多くて残しても俺が食ってやるから好きな物頼めよー」
「はーい!」
もうなんか、先生に対して遠慮する必要ないんじゃないかと思い始めたなぁ…
チーズとか色々入ってるのもあるのか、うーん……メニューの端っこにあるのが気になるな…
「せんせ、これ」
「ん?了解。飲み物は?」
「オレンジジュース飲むからだいじょーぶ」
「おう。俺が食べ足りないからセットでポテトつけるけどいいか?」
「私も少し欲しい!」
「もちろんいいぜ、店員さーん」
パタパタと黒いエプロンの制服をつけた猫の獣人店員さんがこっちに来る。
ハンバーガー、楽しみだなぁ
花白は注文をしていると嬉しそうに笑い、俺の膝上によじ登ってきた。
テーブルの上にあるオレンジジュースの入ったコップを両手で取り、目を輝かせ、獣耳と尻尾を揺らしている。可愛らしいな。
――店員へ注文伝え終えると、犬族の老人が話しかけてきた。
「君たちは見たところここら辺の人達には見えないが、観光かなにかかい?ああ、私の名前は
「王都で教育者をしてる
名乗ってから人見知りをしている花白の頭をゆっくりと撫でて白髪狐の幼女を紹介する。
同じ獣人だからか花白に向ける目は慈愛しかない。
「外の人たちからすると、ここはどうだい?」
「とてもいい所だな、と。少なくとも王国の中心地と比べて人族と獣人達の仲がいいように見えるので」
俺が寝ている花白を抱えて店を選んでいる時も、他の獣人や人達は快くいい店などを教えてくれたしな。
話を一区切りするとそれを見計らったように店員さんがいい匂いのするハンバーガーとポテトのセットを置いていく。
「ほら、花白。来たぞ」
「………ん」
?……あぁ、人見知りだから怖いのか
「お嬢ちゃん、私はもう行くからこの時間をゆっくり楽しんでな」
「……わかってる。いつもありがと」
その反応を分かっていたかのように笑って飴玉を机にふたつ置き、曾良さんは去っていく
「知り合いか?」
「……たまにパンとか貰ってたから」
「ほーん、いい人なのな」
「…うん」
「どうした?…やっぱ前のこと思い出すと辛いか」
「少しだけ。」
悲しそうな顔をどうにか笑わせたいんだが…
キュルルル…
「!!!」
「ふ…ふははっ!そうだよな、腹減ったよな。好きなだけ食えよ」
小さく空腹を主張してきた腹を一瞬見て、真っ赤な顔で俺の腹にしがみついてる白髪狐を乱暴に撫で回す。
「うぅぅ…いただきます…」
小さな手でハンバーガーを手に取りかぶりつこうとし…具材がとび出かけるのを見て慌てて止める
「ストップ。ちょっと貸してな」
不思議そうに俺の手元を見てるのを横目に添えてあった紙ナプキンでハンバーガーを包み大きかったのを花白でも食べやすいように軽く潰して渡す。
「ほら。これでこぼさないから思う存分食べていいぞ」
「ありがとう!」
笑顔、笑顔。さっきの悲しい顔は見る影もなく美味しい飯を食って、俺の目の前で笑ってくれる。それはとても嬉しいことだと思うから。
「なぁ花白、曽良さんの感じ変じゃなかったか?」
「んー?普段からあんな感じの人だよ?」
気づいてないのか、花白奈良って思ったんだがそれならあとで一人で調べてーー
「でも、あの人が王国の上の方の人だってことはなんとなくわかるよ」
「!…気づいてんじゃねぇか。んじゃ、そんなお偉いさんがここにいる理由は?」
試すような視線を向けて頬にソースをつけたまま考え込む白髪狐を見る
「単に獣人がたくさんいるここを見張るため、って可能性もあるけど、良くしてもらったり、ここ人たちとも仲良さそうだから…」
「「獣人の権力を少しでもあげる視察」」
二人の声がハモり、不覚にも笑ってしまう。
あんなお偉い爺さんがただの仕事できてるならこんな個人営業のハンバーガーショップに入るわけもなければ、ここに住んでるわけでもないように見える俺たちに声をかけるわけもない。
「少しづつ、物事は動いてんのかもなぁ」
「少しづつ、世界は優しくなるのかも?」
「そうだといいな?」
「そうだといいね。」
まるで他人事のように話すけれど…窓に写る俺たちは、好奇心旺盛の子供のように、笑っていた。
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