元英雄と狐少女のガルビュール
(あったかいな…)
いつも通りのベッド。
窓から差してくる朝日の光。
少しづつ意識が覚醒してくるのを感じもぞもぞと体を動かそうとする。
「…?」
右腕が動かないんだが、ったく…予想通り紫バカ狼が隣に…
「
いる訳もなく、いたのは最近拾ってきた白髪狐の少女で…昨日の夜、横に寝かせたのを思い出す。
(似てるもんなぁ…お前ら)
優しく狐耳を撫でてやりながらベッドから降り暖炉に魔法で火をつける。
勝手に託された長杖をあまり知りもしない女の子に渡して怒っているだろうか?あいつが怒っても対して怖くはないし、その事でまた俺の前に出てきてくれるなら…どんなにいいだろう。
(自分で殺したくせに、何言ってんだ俺は)
俺の義妹で元聖女の狼少女、
寂しがり屋で、
そして死んだ後転生してやっとこの前連絡を寄越してきたバカ妹である
「初めて会ったの、何年前だっけか…」
そういうのはあいつが覚えてたからなぁ…少しづつ忘れていくのが何回考えてもすごく怖く…それでいて、安心する。
「最後」の時はどうせ忘れられない。それなら幸せだった時を忘れて
「せん…せ…?」
「!…悪い、起こしたか」
「んーん…せんせー…どこか痛い…?」
「?いや、だいじょうぶだぞ?」
「でも……泣いてる」
むくりと起き上がった花白がベッドの上に立って俺の頬を流れていた涙をちっさい手のひらで拭い取っていく。
「っ…ぅ…」
「だいじょーぶ、だいじょうぶ…だよ」
あまりにも情けない。勝手にあのバカ妹とこいつを重ねて、勝手に泣いて慰められるなんて…くそったれ…
ギュゥゥ…
「えへへ…あったかいね」
「あぁ…」
すっぽりと俺の胸の中に収まる感覚もふわふわとした髪も、優しい声も…少しづつしてくる荒い吐息も……
吐息?
「寝てやがる……」
そりゃそうだ、寝起きであんな抱きついてたら暖かくて睡魔もやってくるよな…
椅子にかけてあった淡い紫色のブランケットを肩に掛けてやりもう一度ベッドに寝かせる。
あとは、少し荒い吐息を戻すかね
ゆっくりと呼吸に合わせて背中をさすってやる、そうすれば自然に俺の手の動きに合わせて胸が上下し始めるのが分かり3分ほどそれを続けて、ちゃんと呼吸してるのを確認して布団をかけてやる。
(久しぶりにやったけどできるもんだな…)
延々にやってたもんな、俺が離れるとすぐ寝てるくせに泣くから手が覚えてんのかね。
気持ちを建て直しながら寝室から出てキッチンに行き黒いエプロンを付ける。
何作るかね、昨日の夜ぶっ倒れたのは風邪とかっつーより疲れてたのと初めて高等魔法を中級、上級魔法を使ったこともなく体が成長しきってない少女が使ったから耐えきれずに…ってとこか。
「なんか体にいいもん作るか」
お粥はあんま噛まなくても食えるから体にどっちかと言うと悪いんだったような気がするし…出来れば米もいいんだが野菜とかで食べごたえが欲しい
んーー、ポトフ?だったかあれ
レシピ本は……っと…白い年季の入って所々汚れたり破れたりしている本を手に取りパラパラと流し読みしていく。
穴の中の蛙じゃなくて、いやこれもうまいんだが…サングリアは酒だからダメだな。でも飲みたいし今度作ろう。
「あ、あった。ガルビュール」
ガルビュール
豆と野菜、鴨肉をコンソメか鶏ガラで煮込むスープ料理。
(鴨肉なんてないしベーコンで代用するか。)
作り方は簡単、水に浸しておいた白豆とキャベツ、にんじん、じゃがいも、玉ねぎなど好みの野菜と適当な肉類をオリーブオイルで炒めて水とコンソメか鶏ガラスープで味付けをして煮込む...だけの料理。
あとはバケット…フランスパンを焼いておいてバターと隣に添えておけば・・・
「疲れてる時にパンってどうなんだ…?」
消化に悪そうな気がするのは気のせいじゃないような気がするから予定変更。
片栗粉でスープにとろみをつけて東方から仕入れた真っ白な硬い豆のようなもの(まぁつまり米)を炊いて柔らかくしスープの中に入れる。
「洋風粥っぽくなればいいんだけどなー…」
チーズを入れたらリゾットになりそうだけど塩分はベーコンがあるからしょっぱくなるだろうしやめておくか。
「先生…?」
「!」
少しだけ息の荒い白髪狐の少女がしょんぼりと尻尾と獣耳を垂らしドアの隙間から顔を覗かせているのを見て…咄嗟に駆け寄りブランケットを寝室から魔法で取りかけて抱き寄せる。
「どうした?まだ寝てた方がいいと思うぞ」
「だって…せんせーがいなかった…から…」
「ったく……抱っこしててやるから大人しくしてるんだぞ?」
「はーい…!」
触れてこないってことは、俺が泣いてたことは忘れてるのか?………お願いだから恥ずかしいし忘れてて欲しいところではある。
閑話休題
「飯作ったんだが食えそうか?」
「先生のご飯ならなんでも、いつでも食べる…!」
「そうか、ありがとうな」
「♪」
さっきとは打って変わって嬉しそうに動いている獣耳を髪と合わせて撫で回しながら魔法でスープ皿に2つ分装い、スプーンと暖かいお茶をテーブルの上に置いて花白を座らせ…すわら…すわ…
「俺の腕から手を離してもらっても?」
「いやです」
「????え、は、なんでだよ」
「抱っこされてろっていったのは先生です。」
「いやまぁそうなんだが」
「だめ、ですか…?」
「………はぁぁぁ…わーったよ」
「わーい!」
椅子に白髪狐の少女を抱いたまま座ってスプーンに飯を掬い何をするか察して頬を赤く染めてる花白の口元まで持っていく
「せ、せんせ…?」
「口開けろ」
「いや、え、でも………恥ずかしい…」
「ん?でも俺に抱っこされてるのにスプーン持てないだろ?」
「そうだけど…」
「それじゃ、口開けような?」
「う、うぅ…!!」
ふっ……口で俺に勝とうなんて1億年早いな。
お願いだから…
そう思うのが、身勝手な俺の妄想だったとしても。
笑っていてくれればそれでいいと
あいつみたいに「俺たち」のために堕ちていった血濡れ姫のようにはならないで欲しいと思う。
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