【幕間】生き返った妹とショートケーキ
お湯が湧いた合図のやかんのピーッという甲高い音が地味に好きだったりする。
兄がいないこの家で執筆に没頭してるとお茶の時間すら忘れてしまうから、音が鳴る度に休もうと思えるし、小さい音だと無視してしまう。悪い癖だなとは思ってるけど直せそうにないのがつらい
そんな馬鹿なことを考えながら魔法で耐熱ガラスのティーポットを出し棚にあった紅茶を思い浮かべ悩む。
(どーれーにーしーよーうーかーなー、っと)
本当は紅茶缶が入っている棚の前で悩みたいけれど、両足どっちも
終わったことは置いておいて紅茶を選ぶ。お茶請けすら何にしようか決まってないから普通にアールグレイの甘くないやつでいいかな。
ほんの少しの休息に思いを馳せて口元が緩むままに茶葉の入ったティーポットへお湯を注ぎ、琥珀色に染まり茶葉が踊る液体を眺める
ガラスに少しだけ映るのは長ったらしい銀髪と左右非対称の紅と蒼に染まる瞳。
前世の時はあった紫の髪と狼耳、尻尾はどこにもない、それに……隣にいてくれた兄もいない。
そういえば兄さんと言えば手紙の返事来てたな〜、休みついでに読もう。
「ふふっ…」
ほのかに香る紅茶の香りを嗅いですぐに飲みたくなるのを堪えて蒸らす合間にお茶請けを…お菓子あったかな。
(お菓子〜、お菓子どこ〜?)
「ん!みーっけ」
雑多に棚や氷魔法で冷やした棚を漁り、キラキラと輝く過保護な兄から手紙と共に送られてきたものを皿に移し、木製のトレーに真っ白なティーカップと角砂糖、ポットと本日の主役が乗ったお皿を置き自作の魔法の箒に乗せて本で床が完全にふさがってる書斎の机に運ぶ。
空飛んでると床とかどうでも良くなっちゃうんだよ、脱稿したら掃除しないとなー
っとと、話が逸れた。
天辺には真っ赤でつやつやとした苺がそっっとでも主役は自分だ!と主張するように置かれている。その下に飾り絞りで飾ってある生クリームが更に苺を引き立てているのが分かる。
形はモンブランのような山形のショートケーキ。
お茶請けを探している間に丁度よく蒸らされた紅い琥珀色の紅茶と紅白のケーキが木製のトレーと相まって輝いてるのを微笑ましく見つめながら……
躊躇なくフォークをケーキに突き刺し柔らかい生クリームと顔を出したスポンジケーキ。中に丸々一個入っていた苺を頬張る。
純白の大量に頬張ったのにスーッと溶けていくクリームの主張を崩さないように配慮されたバターが香るスポンジ、黄金比のようなバランスに飽きがこないように少し酸っぱさが際立つ苺。
食べ進めていき少しだけ喉がパサついてきた時に飲む甘さ控えめのアールグレイ。
まぁ端的に言うと
「ほぅ……」
ため息が出るほどにすっごく美味しかった。
から忘れかけたのだが。
お菓子と紅茶はあくまで端役、私の1番楽しみにしていたものはペーパーナイフと共に横に置いてある手紙だ。
いや、このお菓子も手紙と送られてきたものだから大事ではあるけれど…
慎重にできるだけ封筒を傷つけないにペーパーナイフを当てて糊の部分だけを剥がしていき…勿忘草が描かれた便箋2枚と懐かしい魔力を感じながら万年筆で書かれた文字に指を添える。
『転生をやっとしたくせに1年も連絡しなかったバカ妹へ
いやほんとバカかてめぇ、俺に後処理諸々全部押し付けてまだ足りないか?
6年だぞ、前のお前が死んでから6年!!
ったく…顔を出せない理由に関しては了解した。
了解しただけで納得はしてないからな?
あと、1年かけて書いた本。読んだぞ、向こうにいた5年で色々勉強したんだな、お前の兄としてとても嬉しく思う、が!
お前のことだからどーせ寝ずに食事したりもせず書いてたんだろ、一段落したらこっちから無理やり行くからとりあえずは菓子でも食って休めよ。
あと…こっちは教え子を1人拾った。狐で白髪の
今世での名前の件も了解した。
俺が決めていいのか?とは思ったが恒例行事みたいなもんだからな。
今このご時世と世界はかなり面倒くさいが、、
今度こそ守るから
今世も俺の妹として生きていて欲しい。
最近は戦闘だけでなく料理に目覚めた兄
「…♪」
丁寧に便箋をたたみ直して封筒に入れ直し胸にだく。
「あぁ…早く会いたいなぁ……」
自分で言っておいてなんだけどものすごく会いたいのは事実。ただこんな失敗をして聖女のくせに
『世界を自分のために裏切った』
私にそんな幸せを望めるのかはまだ分からないから…もう少しだけ、我慢しよう。
それにしても花白ちゃん、かぁ…
今、兄さんの隣に入れるっていうのはすっごく羨ましい。
その子は一体…何枚の翼を手に入れるんだろう?
魔力が無意識的に放出し、窓が開き心地よい夜風がレースのカーテンが揺らして月と星が煌めき…
服を突き抜け『六翼』の悪魔であり純白の翼が魔法で顕現され…そして消えて行く。
「あぁ……本当に楽しみだなぁ♪」
箒に乗った義足の魔法使いは…月に向かって笑っていた。
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