狐少女の受け継いだ杖と才能
先生に手を引かれて図書館の奥の部屋で暮らし始めて、えーっと3回寝たから…4日が経った。
一応「魔法の練習はしなくていいの?」と毎日のように聞いてるけど「今は方針を固めるためにもいつも通りやってろ」と言われてる。
………少しだけ不安だけど、考えてても仕方ないから魔法の練習に集中しよう。
最初は八属性の初級魔法を静謐発動。いつも通り威力は低め、その分探知されないことに特化させてる
八属性は火 水 氷 風 光 闇 雷。
一人一人に適正属性があって私は一応氷が適正だけど、魔力が少ない分たくさんの属性を使えるようにはしてる。
ただ……
「『
氷属性の中級魔法式。属性はともかく普通の人が当たり前に使えて下級の魔法学校に入れる最低水準
「っ…!!」
魔法陣は展開されてる。氷の冷たさを感じる。
けど、けど…!
魔力が足りなくていくら待っても発動しない。
利き腕を横に振って魔法陣をかき消して、他の属性も一応ためし…
後ろの扉に背を預けて嬉しそうに目を細めて私を見ている男に声をかける
「先生?……もうお昼ご飯?」
「ん?あー、違う違う。やっと出来たから呼びに来たんだ」
「出来た?…って、なにが?」
「
案内してくれた先にあったのはものすごく頑丈そうで重厚な黒い扉。見たことも無いし精緻で繊細そうな魔法陣が彫り込まれてる。
先生が扉の前で手を出し魔力を注いぎ…
扉は開いた
「かなり広いし迷いやすいから、俺の傍から離れるなよ」
すごく高くてアーチ状になっている天井。
天井に届きそうなほど大きい数十個の棚。
手前の棚には数々の剣などの武器。全部魔力を放ってるから魔剣とかだと思う。この1本だけで私10人分ぐらいの魔力持ってるんじゃ?
思わず手を出して触ろうとしーー
「っ、と。ストップ、触るな、今のお前が触るには危険すぎる」
「!ごめんなさい」
手首を強く掴まれてまた抱っこされる。
先生だっこ好きだよね、ことある事にしてくれるし
「お前に用があるのはこっちな、ほら座れ」
年代物の机と椅子がありそこに座らせてもらう
机の上にはたくさんの本と実験道具?みたいなフラスコとかが散乱してる。
(……先生こんな机で研究とかしてるのかな)
「普段はもっと綺麗だぞ?これに関しては急を要するもんだったから今は汚いけどな」
「心を読まないで!?」
「わかりやすい花白《》が悪い。んで、この3つならどれがいい?」
先生が、棚に立ててあった三本の棒を指さす。
1つ目は木製。何となく大樹と同じ魔力を感じる。
2つ目は向こう側がキラキラしながら透けて見えるから水晶か何かだと思う。
3つ目は金属っぽい。銀色で少し短めだけど1番魔力を感じる。
3つとも何かをはめ込むためなのか上の方に穴が空いてる
全部綺麗で吸い込まれそうな魅力がある。けど…
「これ、がいい。」
ゆっくりと手を伸ばし…指先が木製の棒に触れた瞬間
棒は白く発光し、上に飛び上がって一回転したあと私の手中に納まった
「調整はばっちりだな。あとは……」
先生がゆっくりと棒の先端に手を添えて…膨大な魔力が流れてくるのが私からもわかりーー
白銀の宝石と薄紫のリボンが現れ杖にはめ込まれた。
「これで完成。この杖の名前は、
聖女……聖女っていった…?
この世界が八匹の龍に襲われた時にほかの英雄たちと共に龍を倒して英雄視され…聖女はとても優しかったから。
その癒しの力を使って世界を「治そう」とし…上に君臨する王族たちの怒りに触れ……最終的に王に命じられた勇者に殺されたとされ、それ以降聖女の適正を持った人物は現れなかったとされる、伝説の1人
しかも「託された」ってことは先生は聖女にあったことがあるってこと…?
「まぁまぁ、少しずつ教えてやるよ。当代の聖女となるのはお前なんだから」
・・・・・・・ふぁ??
「え、えっ!?当代の、聖女ぉ!?!?私が!?」
「ん?…あ、言ってなかったか?」
「聞いてない!1ミリも聞いたことないよそんなの!街でそんなこと言ったら石投げられる!」
「確定はしてないからなぁ…でも、俺が魔法を教えるってことはそういうことだから」
「???」
「さっき言っただろ?少しずつ教えてやるって。お前がなりたくないなら無理強いはしないしな。まだ子供なんだし、俺はお前の選択肢を増やしていくだけだ」
「ん…わかった。」
ゆっくりと諭すように言われて本当に無理強いする気は無いんだろうなぁ…とは思う。でもこんな孤児が英雄になれるなんて思わないけど…先生がそれを望んでいるのなら。
私はそれに応えられたらいいなと思う
「じゃ、新しい杖の慣らしに手合わせするかね」
「そういえば先生とやったこと無かったね」
「そりゃあんなボロボロの子供に手を上げる趣味はないしな。……一応聞くけど体調はどうだ?」
「すこぶる元気!」
「ならよかった。先手は譲ろう」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
間合いは一足一杖。
魔法を使うには近すぎるし、だからといって剣を振るには少し遠い距離
相手は聖女に会ったことがあってしかも託されたってことは信用されてるんだと思う。腕が格上なのは確定してる。
「行きますっ!!」
腰に指してあった短剣を引き抜き叫びながら前傾姿勢で突進。間合いを詰め、先生に激突する寸前で上段から剣を振り下ろすけど…尽く防がれる。
これ、魔法で作った壁?
「速度は申し分ないけど威力が足りないな。」
「っ…」
余裕そうにしてるけど…
(いっけぇぇ!!)
「ちっ!」
心の中で叫びながら剣身に準備していた魔法を発動
剣身は白光し氷の蔦が魔法の壁に干渉し…破壊!
あとは攻撃魔法か剣で斬りかかれば…
「!?」
「初見の魔法に対する対応力は上々だな。ただ…甘すぎる」
私が作った名前もない魔法を先生は模倣。剣身に蔦が巻きついてくる。
(剣はもう無理かな…)
潔く短剣を地に刺してさっき貰った杖を両手で握る。
(不思議、どんどん杖から魔力が流れてくるみたいな…)
いつもなら使えない中級魔法も使えてしまいそう……いや、これならっ!!
できる限り杖の魔力を魔法制御がギリギリ出来ないぐらいまで引き出しながら1番威力の高い魔法…高等魔法を発動
「『
白蒼の光が舞い氷花が吹き荒れると共に私の背と同じくらいの大きさの狐が現れ…先生に突進していく
「…まぁ、及第点だな。」
それを先生は初級の炎魔法「
水蒸気が視界を多い尽くしていく。探知魔法で先生を探して魔法を……ふぇ…?
体が…だるい…
「お…っと、大丈夫か?」
ギュゥゥ…
倒れかけたところを抱き上げられる。すごく、すごく…あったかい…
「花白?おい、どうした?」
「初めて…初めて初級魔法以外の魔法を使えた…!!」
「そうか、魔力少ないんだもんな…でも、おかしくねぇか?」
「なにが?」
「いやだって、あの杖は持ってるやつの魔力を使って魔力制御を補助するもんだから、高等魔法使えたのはお前の魔力あっての事のはずだ」
「………え?」
「この杖を持つ前は確か初級魔法しか使えなかったんだよな?」
「う、うん。」
「なら極めるのはそこだな。杖がなくても好きに魔法を操れるようにする。それがこれからの課題だ」
「……」
そんなこと…できるのかな…
「大丈夫だ、お前が羽ばたけるようにするのが俺の仕事だからな。」
「でも…」
「でも、じゃないさ。俺が教えて、それでも本当に辛くなって苦しくて、魔法を見るのも嫌になったら…その時はまた、別の道を俺が指し示してやる。」
「……!」
「花白。だから今は…俺を信じてくれ」
その時の先生の目が揺れてとても不安そうだったのに…私の心が奪われるほどかっこよかったのは。私だけの秘密。
返事?そんなのは決まっている。
ゆっくりと私は、うなづいた。
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