第6話 魔力鑑定、あと就職

 「……リーダ、これはとんでもない人を見つけてきましたね」

 「それほどか」

 「ええ。俺が今まで診てきた中では間違いなく一番。というか世界中探してもこれだけの魔力を内包している人類は数えるほどしかいないと思います。魔力量で言えば間違いなく超超超一流のマニピュレイターですね」

 「なるほどな……」


 宿屋兼酒場兼レストラン兼王国ギルド支部兼クエスト受注所という、詰め込み過ぎなんじゃないか? とも思える店内の隅っこにて、俺の魔力鑑定とやらが行われていた。もち。ロイドさんの許可は取ってるよ? ……ほんと、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。

 

 しかしまあ、当の本人は置いてけぼりだがなにやら賑わっている様子だ。

 マニピュレイターって何すか?


 「ケンジ」

 「はい」

 「どうやらキミはとんでもない力を持った人物だったようだな」

 「ありがとうございます?」

 

 一応、褒められたようだから喜んでおく。

 自分の持つ魔力量が凄まじいと言われても、その本人がまったくそれを自覚できていないわけなんですが。

 

 「――ただ」


 リリレナさんの言葉に付け加えるようにロッド・クラシスさんが声をあげる。一応、まだ鑑定中ということだろうか、ロッドさんの瞳が俺を捉えて離さない。



 「回路が開いていない。これじゃあいくら強大な魔力を秘めていようと、その力を行使することができません」

 「……えーっと、つまり?」


 なんとなく言わんとしていることは理解した。

 

 「宝の持ち腐れってやつです」


 あーね。

 

 「回路か……それはわたしたちにはどうすることもできないな」

 「ええ。そもそも回路が開いていない人なんて聞いたことが無い。……ケンジさん、やはりそういったことに心当たりはないんですよね?」


 昨夜、リリレナさんに話したおおまかな内容はリリレナさんからゴラルのおっさんとロッドさんの両名に。俺の方からロイドさんへと伝えてある。だからこの三人にも、一応、俺は記憶を無くした放浪者という扱いで回っている。


 「はい。特にそういった記憶は無いです」


 だいたい、俺のいた世界には魔力なんてオカルトめいたエネルギーなんて知られていないしな。というか俺自身未だに半信半疑ではある。いやまあリリレナさんが嘘を言うとは思えないのでその力は実際にあるんだろうが、この目で見るまではどうもな。


 「あー。でも、昨日リリレナさんが言ってたけど、身体強化? ってやつにはその回路っていうのは関係ないの?」

 「どうだろう。回路が開いていない人類など前代未聞だからな。必要がないのかもしれないが、そもそもそんなヤツが今までいた試しが無いからわからない、というのが正直なところだ」


 どうやら、俺は自分で思っているよりよほど特殊な人間として認知されてしまったらしい。そんな大層なもんじゃないですよ? 日夜筋トレに励んでいるしがない引きこもりですから。


 

 …………。


 

 「あ!」

 「? どうした、突然大きな声を出して」


 忘れてた!

 

 「えっと。まあ、日課? のようなものをしていたなとふと思い出したんだけど」

 「ほう」

 「ただ道具が無いとできないことだから、ここじゃあ無理かな」

 

 しかし、こんな状況に陥ってるってのに筋トレのことが頭をよぎるとは。我ながら、筋肉に支配された生き方をしていると改めて実感させられる。


 「道具か。どんなものが必要なんだ?」

 「えーっと……鉄の棒と丸く加工された穴空きの鉄の重り。それを自立させるための支え。後は丈夫なベンチかな」

 「なんとも随分奇妙なものを欲しがるんだな」


 自分でもそう思う。


 「しかしそれくらいなら町の鍛冶屋に行けばなんとかなりそうだな」

 「ええ。ここの鍛冶屋の腕は大したもんですからね。多少頑固なのが玉に瑕ですけど」

 

 なるほど鍛冶屋か。

 言われてみればたしかにほとんどが鉄製品だ。


 「どうだ。わたしの方から直接かけあってやってもいいが」


 その言葉を聞いて思った。


 リリレナさん、あなたゴラルのおっさんのことを言えないくらいの世話好きですね。まあ、昨日からそんな雰囲気はあったけど。

 

 「ありがとう。でも今はいいかな。それよりもまずはここでどうやって生きていくかを考えないと」

 「そうか。……そうだな。まずは日銭を稼がんと話にならないな」

 

 現実問題、今の俺は一文無しであり、無職の放浪人という立ち位置にいる。無職という部分は以前から変わりの無い部分ではあるが、この世界でもそれを貫けばどんな結末が待っているかなど想像に難くない。


 しかし稼ぐって言ってもどうしようか。

 この世界に知り合いなんていないし、物を作ったり売ったりして稼ぐノウハウも持っていない。というかわたくし、働いた経験すらありません。

 ……あれ? これ詰んでね?


 ある意味で、ゴブリンに襲われた時よりも窮地に立たされている気分に陥る。


 異世界おそるべし……!


 「そういうことならうちで働きませんか?」


 絶望のオーラを放ちながら打ちひしがれていたであろう俺に、カウンターの奥で話を聞いていた様子のロイドさんが一言。

 

 ロイド is GOD

 渡りに船とはこのことか。

 

 しかし。

 

 「どのようなお仕事を任せられるのでしょうか?」


 そりゃあ頼まれればどんな仕事でもするつもりだが、あまり複雑な作業とか専門的な知識が必要な仕事なんて任されたところで失敗するのが目に見えている。

 

 「そうですねー……掃除に洗濯、ベッドメイク。あとは荷物運びや薪割りのような肉体労働になるとは思います」


 要するに単純労働ってやつだ。 


 それならなんとなかる……かな? 

 多分。自信はないけど。


 ……いや。やれるかじゃなくて。やるしかない。

 ほかの選択肢なんて今の俺には存在しない。


 「やります! やらせてください!」

 「はい。こちらこそこれからよろしくお願いしますね」


 こうして、トントン拍子に話が進んだ結果、初めての労働が遺跡という異質な経歴を俺は手に入れた。


 「あ。ここ数日間の宿代はお賃金から引いておきますね」

 「あ、はい」

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