第3話

ゆさゆさ。


ゆさゆさ。


肩をつかんでゆっくりと揺さぶる心地よい感覚。


その刺激に目を覚まし目を開くと、あおいちゃんが俺のことを見つめている。


【恵】

「おはよう」


そう声をかける。


【あおい】

『おはよう』


あおいちゃんも挨拶する。


そのまま二枚目をめくる。


【あおい】

『今朝はみやお姉ちゃんの特性オムライスだぁ!!』


姉の少し汚い序でそう書かれている。


そうか、今日はあおいちゃんとみやのあわせ技だったらしい。


それにしてもオムレツを作るなんて、よほど何かがあったんだと思う。

普段ならもっと簡単なメニューで済ませてしまうのがいつものパターンなのに珍しい。


そんなことを考えつつも。


【恵】

「わかった、準備して行くからってみやに言っておいて」


【あおい】

「…………(コクコク)」


あおいが下へと降りて行く。


パジャマから私服に着替え、俺もそのあとを追いかけて、朝ごはんとなった。



朝ごはんを食べ終わって、ぼんやりしている。


テレビを眺めながら、今日は一日どうしようと考えていると、とあることに気がつく。


やっている番組の内容から考えて、今日は日曜日。

世間一般もお休みの日であると理解した。


【恵】

「そういえばさ、あおいちゃん、今日はこれから何か予定ある?」


【あおい】

『ううん、何もないよ、今日は一日何もないよ』


【恵】

「そっか、じゃあどこか出かけたいんだけど、どこか行きたいところってある?」


【あおい】

『行きたいところ?』


【恵】

「気になるところとか、ここを見てみたいとか、何でもいいんだけど」


【あおい】

『うーん』


あおいちゃんはその文字を出したまんま、しばらく考え込んでいた。


俺もせかさないで考えさせる。


ぜんぜん知らない町並みだったら一つ一つ観光がてら案内してもいいんだけど。


それでは少し一方的過ぎる気がしてならない。


それに昨日、あの買い物をしたということは商店が陰は行っているはずだし、そこの範囲で何か気になるものでもあればなと、そう考えた。


あおいが悩み続けること数分。


【あおい】

『そういえば昨日買い物に行った商店街をみて回りたい』


そういう結論になる。


あおいをつれて家から出かける。

宮に留守番の頼んで、家から出かけていく。


この町の商店街は、家から歩いて5分ぐらいのところにある。


地方の商店街だけって、「シャッタ-商店街」と言うy便がふさわしいくらい、シャッターを閉めている店が多かった。


そんな中、青いが興味を示したのは一軒の雑貨屋さん。


アジア雑貨を中心に扱う若者向けの雑貨屋さん。


【あおい】

『この大きなのが気になった』


あおいが店先にある大きな像を指差しながらスケッチブックに書いている。


あおいが指差している像。

それは今まで見たこともない像だった。


象の頭に人間の体。


体には色々なアクセサリーが施されている。


インドかそこら辺の神話で見たような神様の像。


素材は真鋳でできている。

鈍い黄色い光を放っている。


いくらするのかなと思って恐る恐る。

その像がくいから下げている値札を見てみると。


¥2,500,000


とっても俺のお小遣いでは変えない代物である。


【恵】

「もしかして、葵ちゃんこれが欲しいの?」


【あおい】

「…………(コクコク)」


【恵】

「悪いけどこれは高くて買えないんだ、家に持って言っても置くところないし」


【あおい】

『そっか、それは残念』


本当に残念そうな顔をするあおい。

少し悪いことをしたと思う。


お詫びと言ったら何だが、近くにあった手平サイズの像をとって、あおいに渡してみる。


【あおい】

『小さいおんなじのだ、これも買えない?』


【恵】

「これは買えると思うよ」


土台の裏に貼ってある値段を確認すると


¥700


これならなんと買えると判断する。


【恵】

「いいよ、これだったらかっていけるよ」


【あおい】

『やった』


あおいは喜びながら像をじっくり観察している。

ものめずらしそうにいろんな角度から像を観察している。


確かにものめずらしいだろう。

俺だって、何度もこの商店街に来ているけど、こんな像をみたのも初めてだし。

それに、それの小さいサイズが置いてあるのなんてはじめて知った。


あおいはいろいろなものを観察する才能があるのかもしれない。


嬉しそうに像を見ているあおいちゃんを観察していると。


【あおい】

『この頭のくぼみは何?』


そんな疑問が投げかけられる。


【恵】

「どれどれ」


青いからその像を受け取り、自分もその像を観察してみる。


オリジナルの大きな像と見比べてみて、確かにこの部分だけがつくりが違う。


オリジナルの像の頭に皿をのせたようなつくりになっている。


このままぼんやり考えていても分からないので、店の人に聞いてみるkとにする。


【恵】

「すみません、この頭の上についてるお皿みたいなのは何ですか?」


その呼びかけにこたえて、店の中から人が出てくる。

エスニックなファッションの店員さん。


服のいたるところには葉っぱのマーク。

それと同じデザインのネックレスまでしている。


【店員】

「それはですね、お香を立てる皿ですね」


【恵】

「これはお香たてなんですね」


【店員】

「はい、スティックタイプではなくて、コーンタイプ限定になりますけど、お香とセットで買っていかれる方が多いですね」


【恵】

「そうですか、ありがとうございます」


それを確認した後で、あおいちゃんに説明する。


【恵】

「ここにお香を立てて使うんだって」


【あおい】

『おこう?』


聞き覚えのない単語だったのだろう。


お香という言葉が理解できずに首をかしげている。


【恵】

「お香って言うのはね、これに火をつけて、香りを楽しむものなんだよ」


そう言い聞かせながら、コーンタイプのお香を取り出して説明する。


あおいはまだ半分分かっていないような表情だった。


店員さんにきちんと断ってから、お香に火をつけさせてもらう。


そして、店先でムスクのお香をたき始める。


やがて火のついたお香から煙が上がって、ムスクの匂いを漂わせる。


その実際使っている様子を見ながら、あおいもついに納得したのか。


【あおい】

『すごい、さっきよりも匂いが濃くなった』


【恵】

「そう、こうやって香りを楽しむのがお香だよ、あおいはどの匂いが好きかな?」


【あおい】

『今もやしてるこの匂いは、なんだか合わない気がする』


【恵】

「そっか、それじゃあ他のも燃やしてみよう」


【あおい】

「…………(コクコク)」


それから、店員の人と相談して、サンプルとして燃やしていいものを安い値段で買い取ることにした。


色々試した。


ムスク

ビャクダン

ストロベリー

バニラ


色々試してみた結果。

一番相性が悪かったのがムスク。


次にあんまりあおいが好きでなかったのがビャクダン。


ストロベリーは甘くてフルーティーな匂いが気に入っていたし、ヴァニラはその濃厚な甘い匂いで、よほど気に入っているみたいだった。


燃やしたサンプルのお金、ヴァニラとストロベリーのお香のお金と、お香たての代金を入れて

約2000円程度。


なかなか大きな出費だけれど、あおいが喜ぶのならとガマンして払う。


【あおい】

『これであのいいにおいが毎日かげるね、嬉しい』


そう書きながらご満悦なあおい。


このまぶしいくらいの笑顔のために2000払ったのだと思えば安いものだった。


そう言い聞かせながら商店街から家に向かって歩き始める。


ゆっくりと歩いていると、カランカランとベルを鳴らしながら客寄せしているアイスクリーム屋が見えた。


それをよこめに、通り過ぎようとしたとき。

グイッグイッとあおいに肩を引っ張られる。


何事かと持ってそちらを見ると。


【あおい】

『あの白いの何?』


【恵】

「あの子供が持ってるのか?」


【あおい】

『うん』


【恵】

「あれはね、ソフトクリームって言って、食べ物だね」


【あおい】

『おいしいの?』


【恵】

「もちろん、気になった?」


【あおい】

『あの白くてふわふわしてるのが気になった』


【恵】

「食べてみたい?」


【あおい】

『うんっ、いいの?』


【恵】

「よし、それじゃあ食べようか」


【あおい】

『わあぃ、どんな味がするのか楽しみ』


ここでものすごく悩んだ俺がいた。


通常ヴァニラだったら1つ¥250

でも、特農ヴァニラは1つ¥400


どちらを頼むべきか。お財布への優しさも考慮すればヴァニラ。


でも、あおいに良いものを食べさせたいと言う心を前に出せば、特濃ヴァニラ。


数分間、葛藤した上で選んだのは特濃ヴァニラだった。


でも、出費が大きかった分、それなりに効果はあった。


あおいが口に含んだ瞬間。

とても嬉しそうな顔をした。


やった。

誰にも聞こえない心の中で俺はそう叫んでいた。


二つ分で\800は痛かったけど、あおいが女にニッコリ笑ってくれるのであれば、それ以上の価値があったのではないかなと、そう思っていた。


【あおい】

『甘くておいしい、口に入れるとすぐとけちゃう』


【恵】

「おいしかった?なら良かったよ」


【あおい】

『冷たいのに、甘い、なんだかとってもふしぎな感覚』


【恵】

「そっか、アイスでそこまで珍しがる人はじめてみたよ、でも、気にってくれたんなら嬉しいな」


【あおい】

『さっき買ったおこうと同じ匂いがする、お香も甘いの?』


【恵】

「残念、お香は匂いだけ、甘くはないんだよ」


【あおい】

『えー』


あおいはよほど残念だったのか、がっくりと肩を落としている。


その様子をみながら


【恵】

「ほ、ほら、お香の匂いをかげば甘い味を思い出すかもしれないよ?」


とか、よくわからないフォローを入れてみる。

あおいは意外にも「そうか」と何かに気がついたような顔をしていた。


【あおい】

『それもそうだね、今日はソフトクリームごちそうさま』


【恵】

「どうしたしまして、それじゃあ、そろそろ夕方になるし、お家に帰ろうか?」


【あおい】

『うん』


どちらからともなく、手をつないで歩き始める。


【あおい】

『今からもやすのが楽しみ』


【恵】

「きっと良い匂いがするよ、さぁ、帰ろう」


【あおい】

『うん』


そのまま、手をつないで家まで歩いて帰る。


茜色に染まっていく町並みを眺めながら、二人で歩いていく。

いつも見慣れているはずの町並みが、新鮮なものに見えていた。


普段なら特段気にしないものでもあおいに

あれは何?

あの飛んでるのは何?

大きな木だ


などなど、細かいことに気がついて話を振ってくるのを見ながら、俺は普段きがつかかないものにふれているなと再認識した。


そんな細かい街観察を終えて家に帰るころにはちょうど晩御飯の時間だった。


そのまま、アイスクリームや雑貨店の話題をお土産にしながら晩御飯を食べて、普段みやと二人きりで晩御飯の食べるのとはまた違う。


一家団欒のようなひと時を過ごしていた。


夕飯を食べ終わったあと。


茶の間にはさっき買ってきたヴァニラの濃厚な匂いが漂っていた。


その匂いをかぎながら、今日のヴァニラが気に入ったのかなと、そんな風にあおいを見ていた。


【恵】

「お香は気に入った?やっぱりヴァニラの匂いが好き?」


【あおい】

『うん、本当にこの匂いをかいでたら、ソフトクリームのこと思い出した』


【恵】

「どっちも気に入ってくれたんだね、それは良かった」


【あおい】

『うん、どっちも大好き』


そのままあおいは言葉を書き続ける、邪魔をしないでそのまま待ってみる。


【あおい】

『またいつか、食べにつれてってくれる?』


【恵】

「うん、約束するよ」


【あおい】

『ありがとう』


その約束を交わしたあと、二人でぼんやりテレビを眺めていた。


ソフトクリームとお香。


どちらも気に入ってくれたのなら良かったなと胸をなでおろす。


その後、あおいは眠りつく少し前までずっとヴァニラのお香をたき続けていた。


よほど気に入ったのだろう。


またいつか、ソフトクリームを食べさせてあげようと強く思った反面。


こんなに気に入ってくれて嬉しいなという気持ちで俺自身も満足していた。


今日は街案内をしたし明日からは何をしよう?


そんなことを考えながら、眠りについた。

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