幼馴染(♂)と俺の恋人の二人が俺の所に来て「お前の大事な女を俺にくれ!」と宣う話

@akinu2

第1話

俺は呼び出されたファミレスで二人が来るのを待っていた。

幼馴染であるたかしと同じく幼馴染で恋人のかおりから、


「大事な話がある、時間を空けておいて欲しい」


と二人揃って連絡が来た時に俺はもう覚悟は決めていたが、この後の事を考えると頭が痛くなる。


だが、俺は今日あいつにあの時の報復すると決めている。


冷め始めた珈琲を口に含んでいると、店内に二人が入ってくるのが見えた。

俺はソファーの真ん中に陣取りながら、こちらに気づいた二人に顎をしゃくってこちらに来る様に促す。

二人が対面のソファーに腰掛けると、暫し沈黙の時間が流れる。


先にこの空気を打ち破ったのは俺だった。


「それで、話ってなんだ? まぁ、薄々内容は分かってるけどな」


俺の怒気を含んだ声に孝の奴は若干肩を強張せる。


「ちょっと! いきなりそんな態度はないんじゃない!」


そこに割って入って来るのは香だ、俺の態度に抗議の目を向けている。


「今は俺と孝が話してるんだ、少し待っていてくれ。それに香も同罪なんだからな?」


「それは…でも、ちゃんと理由があって…」


俺は無言で香の顔を正面から見つめる、罪悪感からか香はそこで俯いてしまった。

そうだ、今はそれで良い、香に話を聞くのは孝の奴を取っちめた後だ。


意を決した様に孝はしっかりとこちらを向き、口を開く。


「お前の大事なひとを俺にくれ!」

「駄目だ」

「っ!」


にべもなく一蹴する俺に孝は唇を噛む。


「そもそも、お互いに合意しているのか?」

「あぁ、もう半年前から付き合い始めてる」


孝の言葉に頭がくらっとした、それは俺が香と付き合い出したのと殆ど同じくらいじゃないか。

俺が香に目を向けると香は明らかに動揺して目を泳がせている。

ふふっ、鈍いのは俺だけだったという訳か。


「そうか、そんなに前からか…まさかお前、もう手を出したりは!」

「そ、それはない! お互いに良い感じになった事はあったが一線は越えてない!本当だ!」


身を乗り出しかける俺に対して、孝は必死に否定する。

その様子からは嘘ではない様に伺えるが、もし嘘だったら容赦はしない!


「…………ごめん、キスはした」


俺の心算に気づいたのか、孝が深々と頭を下げ、それを隣で聞いていた香は軽く赤面している。


「キス…キスか。キスかぁ〜」


どうしたものかとも思うが、そのくらいならまだ許せるか?


「ちょ、ちょっと軽く触れ合いもしたかな……」

「よし殺す」


奴の問題発言に俺の怒りゲージは一気に急上昇していく。


「ふ、服の上! 服の上からだから!」

「そういう問題じゃねぇだろ! 俺だって香とまだそこまで行ってないのに!」

「そうなのか!?」

「そうだよ!?」

「…あんたら、この場で死ぬか?」

「「ごめんなさい!!」」


公衆の面前での暴露に赤面した香が俺たちを睨みつけるので、ここは二人一緒に素直に土下座する。


…………。


一旦、激しくなっていた気持ちも落ち着いたのでお互いソファーに座り直し、軽く咳払いしてから仕切り直す。


「本気なんだな?」

「あぁ、もうお前に隠していくのも限界だからな」


孝の目は本気だ、きっとあいつの気持ちも同じ何だろう。


「辛いだろうけど、分かって欲しいの。あなたも一歩踏み出すべきよ」


天井を仰ぎ見る俺に香が心苦しそうに声をかけてくる。

分かっている、分かっているんだ。

それが二人の為なんだもんな。


「だから俺にお前の大事なひとあんちゃんを俺にください!」


そう言って孝は俺に最愛のの名前を叫んだ。


ふぅと溜息をつく。


「二人がお互いに合意の上なら、俺からこれ以上口を挟む事はできないよ」

「っ! あ、ありがとう!」


孝が顔を上げて瞳を潤ませている、男の泣き顔なんて見たくもないわ。


「ていうか、半年前って俺が香に告白する為にお前に同意を得に頭下げに行ったくらいじゃん、どう言う事?」


俺が香に向き直ると、香は困ったような表情を浮かべながら


「それがね、兄さんったら私と君が付き合うってしって、本気で凹んでたら杏ちゃんに慰められて…逆に前から好きだったって告白されたみたいよ。

でも、お隣の兄妹が揃ってお付き合いしてるのも恥ずかしいから黙ってて欲しいって頼まれちゃって、でもこれで晴れて公認カップルね!」


キャー!と黄色い声を上げている香に俺は肩をすくめる。

が俺にボッコボコにされないかと心配だからこの場に同席を願い出た彼女も二人の事は最初から知っていたらしい。

教えてくれよ、本当。

俺が白い目を向けていると、悪戯っぽく舌を出していた。可愛い奴め。

おっと、今はこっちだ。


「何だよそれ、俺の時は『ヤダヤダヤダ、香は昔お兄ちゃんと結婚するって言ってたもん!』って散々駄々捏ねた癖して、お前はコッソリ付き合いだしてたのかよ、杏と!」

「てへっ」

「なぐりたい、その笑顔」


何を隠そう、俺も孝も重度のシスコンだ。

妹の為なら世界だって敵に回すと言えるレベルの。

それで俺の時は引っ掻き回した癖に都合の良い奴だ。

まぁ長い付き合いで悪い奴じゃないのは分かっているので少しくらいイジってやったって悪くはないだろ?

これくらいはあの時の軽い報復だ。


それに、実は二人が付き合ってるのはこっちも薄々勘づいてたし。

というかあからさまにお互いそれぞれの妹と接してる時間が増えてればいかに鈍い俺でも流石に気づくわ!


「あ、いたいた! みんなヤッホー!」


部活帰りの杏がファミレスにいた俺たちに気づいて店内に入ってくる。

香が手を振って出迎え、孝も杏に笑顔を向けている。

俺たち幼馴染の関係は今後もきっと良好だ。

この光景がそれを物語っている。


ざまぁ?NTR?なんの事ですか?


「それにしても二人ともプラトニック過ぎない?」

「そうね、私ももう少し進展したいかな?」


お互いに公認カップルとなった妹たちが明け透けにそんな話をしてこっちを上目遣いに覗いてくる。

俺と孝は目を合わせ、お互いに頷き合うと同時に口を開く。


「「お兄ちゃんは許しませんよ!」」

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