第1話「高校時代①」

5月の夕暮れ時。

僕は、誰もいない放課後の教室で1人のんびりと寛いでいた。

家から持ってきていた恋愛小説を読みながら、ふと窓の外をちらっと眺める。


夕陽によって赤く染まる校庭で、野球部の部員たちが大きな掛け声をしながら、トラックを何周もジョギングしていた。

ここの野球部は、埼玉県の中で五本の指に入るくらいの強豪野球部だ。別に僕自身は応援しているわけではないが、クラスに野球部の部員が何人かいて、そいつらが自分たちの大会の成績をクラス中に自慢するのだ。だから、必然と野球部の成績は耳に入ってくる。


「埼玉の中では強いっていったって、甲子園には1度も出たことないんだろ。そんな可能性が低い目標を薔薇色の高校生活を無駄にしてまで目指すなんてな。よくあんなに熱心に取り組めるもんだ。感心感心」


内容がいまいち入ってこない本を閉じて、深い深い溜息をつく。

溜息を吐いたのは、僕自身が、彼らと同じ土俵に立つ高校生だとは到底思えないからだ。


野球に打ち込み精神的にも肉体的にも成長しながら高校生活を送る彼らと、誰からも接触されず、自分の世界の中に閉じこもっている僕。


どっちの方が高校生に相応しいのだろう。


答えは既に決まっている。

明らかに、前者の方が高校生に相応しい。

何かに打ち込んでいる高校生の方が良いに決まってるのだ。

そんなこと誰でも分かっている。


でも、僕は、打ち込めるものが何もない。


「俺もどっかの部活に入ればいいのかな。でも、今更部活に入ったところで誰からも歓迎されないだろ」


もう高2だ。今更、部活に入ったところで新入生ならまだしもぼっち陰キャな上級生を歓迎してくれるところはないに等しい。


無駄な希望を捨て、暇潰しの読書を開始する。


それから少しして、僕は読書に飽きてしまい、机に伏せたまま寝てしまった。


目が覚めた時には、日が落ちていて、教室の中は真っ暗になっていた。

もちろん、校庭にいた野球部の姿もない。

腕時計を見ると、午後7時を回っていた。


「やべ、寝てた。こんな時間だ。早く帰らないと」


僕は、身を起こすと、すぐさま荷物を纏め、暗闇に沈む校舎を後にした。


















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来世は君のために生きる 魔蟲師 @mamushishi

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