第19章 アサルト 1

 テンオウがまさにデスエクスで政治家を操ろうとした時、奇妙なことが起こった。

 ニュース画面に今からテンオウが殺そうと思っていた政治家が映る。

 予想より5分早いな。たまたまか。

「まぁいい……。どうせデスエクスに操られている本人は操られているということは分からない。このまま続ける」

 テンオウは内心焦りながらも、部下たちの前ということで平常心を保っていた。だが、それよりも早く画面の中の政治家は口を開く。

「私が緊急記者会見を開いたのにはとある理由がある。富士樹海の陸の孤島に本部を構えるテンオウ。こいつだけは許してはならない。我が友、軍警察特殊部隊がお前らエンペラーハウスを殲滅してくれよう」

「なに⁉︎」

 テンオウはあまりの出来事に語彙力を一瞬失った。

 その時、外から爆発音が聞こえて来た。外に侵入者を知らせるベルが鳴り響く。ドローンジェット機からロープが垂らされ、人が降りて来た。軍警察特殊部隊のⅡ、Ⅲ、Ⅳの部隊だ。

「クソ……どうなっている」

 テンオウは理解できなかった。デスエクスには、全てを操る力がある。なぜこの場がバレたのだ。

 屋内の火災報知器が鳴り始めた。水飛沫で前が見えずらい。その中を顔を覆い尽くすマスクで完全武装した軍警察特殊部隊が壁を壊して中に入って来た。

 テンオウは咄嗟に逃げた。この建物の仕組みを一番知っているのは自分だ。視界を覆っても感覚でわかる。

 

 テンオウは逃げながら考えた。こんなにも早く本部が特定されるのが信じられなかった。デスエクスは全てのマイクロチップを操れる。どこかで踊らされた。それしか考えられない。

 テンオウはエクスを起動した。

「全エンペラーハウス社員よ聞け。とにかく武器で牽制しつつ外に脱出しろ。ステルスドローンは無事か?」

「残念ながら全てが燃やされています。どうすれば良いでしょうか?」

「仕方がない、外にある林に紛れて逃げろ。幸いここは山の中だ。身を隠しながら逃げればなんとかなるぞ」

 その時、軍警察特殊部隊のグレネードが爆発する。テンオウの近くの壁が破壊され、奥から軍警察特殊部隊が周囲を囲んだ。

 全員が完全武装でガスマスクまでしている。

「もう終わりだ。投稿しろ」

 テンオウはその姿に、かつて自分の住む街を破壊した過去を思い出した。あの時の非力な少年だったテンオウには、冤罪で惨殺された親を隠れて、眺める以外方法がなかった。

 でも今は違う。政府を倒すために手に入れた力がある。

 テンオウは自動歩行信号技術を起動した。

エンペラーハウスで脳内を改造して強化したそれは、通常の肉体が引きちぎれる限界まで出力できる。

「あくまでも対抗する気か。仕方がない」

 軍警察特殊部隊の一人が言った。

「ほざけ。政府の犬どもに何が分かる」

 テンオウは踏み込んだ。一瞬で軍警察特殊部隊の手前まで移動する。テンオウのナイフが首をかき切る。だが、その瞬間全ての視界が揺れた。ジャミングだ。

 軍警察特殊部隊はいつのまにか、テンオウの脳内に入り込み幻覚を見せていた。だが、それはデスエクスのもっとも得意とする分野でもある。

 テンオウはデスエクスを起動して幻覚の元を逆探知した。すぐに、一人の人物にたどり着く。こいつのことは知っている。第Ⅲ部隊を指揮するZだ。

 テンオウはZに狙いすます。マイクロチップハックを発動した。Zの脳内に蜃気楼の映像が差し込まれる。目の前のテンオウの姿が揺れた。

 それに対してZは、テンオウの脳内マイクロチップにピンを打った。自動歩行信号技術を起動する。蜃気楼で幻覚を見せようが、一度ピンが刺されば関係ない。あとは自動オートで対象を追跡する。Zは刃物を構えた。このレベルの大物は逮捕という甘い考えでは無理だ。即処刑による処罰。それが妥当だった。


 肉体のリミッターを解除したZの動きに翻弄されるテンオウ。だがテンオウは驚異的な反射神経と集中力で動きを見切る。そして、Zの次のIOTのピンの到達地点を予測してあらかじめ、手榴弾を置く。それは電波フラッシュバン。つまりジャミングの役割を果たすものだった。


 テンオウの蜃気楼の姿を完全に見切っていたZは、足元にきた手榴弾を余裕を持って避けた。だが、そこから放たれた光に目を、電波で脳をやられた。Zは咄嗟に次に立て続けに来るであろう攻撃を避けるため、腰に巻いていたスモーク入れた。それは軍警察制のもので、同じくジャミングの役割を果たしていた。


「ジャミングでジャミングを相殺するつもりか? いや、違うな」

 一瞬Zの底が見えたと思ったテンオウは思い直した。敵はZだけじゃない。ほかの軍警察特殊部隊のメンバーもいる。

 他の軍警察特殊部隊のメンバーは、集団でテンオウにマイクロチップハックを行った。

 脳がゆらぐ。全てのものが多重に重なって見える。

 

「クソ…! 人数が多い」

 テンオウはつぶやいた。Zがテーザー銃で、脳を狙った。

 ドン

 鈍い音がしてテンオウの脳内マイクロチップの機能がショートした。

 その隙を付いて軍警察の全員がテンオウ確保に向かった。だがテンオウはマイクロチップとのつながりを自らシャットダウンした。

 テンオウはマイクロチップが普及し、堕落した生活を送る人々が現代病として蔓延する中、己の精神を鍛えていた。それはいつか来たる政府との戦いのためだった。

 それが今になって役にたった。

 手錠を手に素手で拘束しようと伸ばしてくる軍警察の大量の腕。テンオウはそれらをしゃがんだり、左右に体をヒラヒラと動かし、全てかわした。

 さらにかわした時の動きの反動を利用して、カウンターを合わせた。それは前に動こうとする軍警察特殊部隊にクリティカルヒットする。

「全員一旦距離をとれ」

 Zは素手でバタバタ倒されていく味方の姿を見て、作戦の変更を余儀なくされた。

 

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