第16章 降伏
「お前一人のせいで我々の計画が潰れるのだけは勘弁してほしかった所だ」
テンオウは何かのスイッチを押した。何かが皮膚を伝って脳内のマイクロチップに流れ込んでくる。
スズラカミは自分の視界が急速に失われているのを理解した。テンオウの声も聞こえ無くなっている。
「五感を使えなくした。これでこのドローン内で暴れられる可能性は無くした」
「流石です。あのスズラカミを糸も簡単に止めるとは感嘆します」
近くにいる部下の一人が褒め称えた。
「お前らは持ち場に戻れ。俺一人でこいつを監視する」
「それは……何かあった時にどうすれば…」
「何かが起こる前に、ワシが全ての違和感を察知する。安心しろ。最もこの企業を知り尽くしているは創造者のこのワシだからな」
テンオウは自信ありげにそう言った。起業して四十年。ようやくデスエクスの喉元にまで辿り着いたのだ。自身が最高戦力として買っていたジョウトが死んだ。その他の優秀な幹部も軍警察に殺された。多くの社員の犠牲を払った。だからこそスズラカミ一人に潰される訳にはいかない。今ここで殺してやりたい。それでもこいつが持っている脳内のデスエクスのパスワードとID。その二つだけは引き抜かなくてはならない。
テンオウはスズラカミの顔を見た。目的を隠している目をしている。それは五感を失っていて、前が見えないからではない。まるで全てを計算しているかのような目つき。
ステルスドローンはとある目的の場所に向かって飛んでいた。その場所が見えると静かに降下し始めた。
いつのまにか山が連なる大地の上をステルスドローンは飛んでいた。一つぽつりと家が立っていた。よく見ると違和感がある。誰かの別荘か何かと普通の人は思うだろう。
その家の近くの何もない地面が割れた。中には山の中とは思えないほどのハイテクな機械が入り乱れている。ステルスドローンはそこに向かって静かに着陸した。
割れていた二つの上蓋が閉じていき、地上との空路は断たれた。テンオウはスズラカミからヘルメットを外し、代わりに手足に鎖を繋いだ。ほっぺを叩く。スズラカミは目を見開いて意識を取り戻した。
「我が家へようこそ。よそ者が入ったのはお前が初めてだスズラカミ。ワシの前を歩け」
テンオウはそう言ってスズラカミに拳銃を突きつけた。
「お前の脳はしばらく使い物にならんぞ。あのヘルメットで失った五感は普通の人間なら全て取り戻すのに半日はかかる」
スズラカミは手枷足枷をつけられて、不自由な身体を一歩一歩動かした。正面にはまたもや同じようなセットの椅子がある。スズラカミはそこに座らされた。
椅子から見える正面には巨大なスクリーンがあり、そこにテンオウのマイクロチップの情報が映し出されていた。
IOTと直接脳を接続しているのだ。元マイクロチップメンテナンス屋のスズラカミにはすぐに理解できた。
「さぁその頭の中にあるIDとパスワードを入力してもらうか」
テンオウはスズラカミにそう命令した。しかしスズラカミはテンオウの脅しに一切怯むことなく、黙秘を続ける。
「…やはりこういう手段じゃ口を開かんか。さすがは電車、港、オークション会場、僧院と暴れまくっただけのことはあるな」
「…俺のことを調べていたのか。気持ち悪いな」
スズラカミは頭の中の記憶を思い起こした。電車で人を殴ったことなど等の昔だと思い込んでいたからだ。あの時が初めてだった。エクスでの擬似体験ではなく、あの肌を打つような生の感覚を味わったのだ。スズラカミはいい記憶にニヤリと思い出し笑いが込み上げた。
「…おい、お前らも来い」
テンオウはスズラカミの様子を見て、後ろで待機していた部下たちを呼び寄せた。部下たちはテンオウと同じようにして座らされたスズラカミに銃を突きつける。
「これで360度どこからも逃げ場わないぞ」
スズラカミはテンオウを一瞬睨んだが、すぐに顔を緩めた。
「降伏する」
その言葉は川を流れる水のように自然な感じで発された。それゆえにテンオウですらその言葉の正式な意味を考えるのに数秒要した。
「どういう意味だ?」
結局は自分の脳内で理解できず、スズラカミに問いただした。
「あんたの目的とやらの協力者になると言ってんだよ」
「何?」
「俺は元マイクロチップメンテナンス屋だった。デスエクスを利用できたとしても、もう時期ハッキングで居場所がバレて軍警察がここにくる。俺はその時、デスエクスの効果を最大限利用して打ち払う方法を知っている。軍警察側はかなりの技術を持っている。このままじゃここは耐えられんぞ」
「お前がいれば維持できるのか?」
テンオウはいつのまにか自分でも意識しない間にかスズラカミの話に乗っかっていた。
「ああ、降伏の土産にIDとパスワードを今からこの画面に打ち込み、デスエクスをあんたの脳に仕込む」
「分かった。やってみろ」
テンオウは二つ返事で承諾した。スズラカミはこうしてエンペラーハウスの仲間になった。なぜそうなれたのか誰も理解はしていなかった。
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