第15章 破封 1

 スズラカミとZは本殿前で今、多くのエンペラーハウスの部下と戦っていた。一人一人が手だれで、じりじりと本殿から離されていく。

 塀の向こう側まで避難した。ここなら銃弾も姿も見られない。ようやくまともに会話できる。

「はぁはぁ…おい、Zとやら。お前の仲間はまだ来ないのか?」

「こいつら、かなり鍛えられている。俺の部下も手こずっているようだ」

「チッ、弱い奴は死ぬだけだぞ」

 スズラカミは嫌味を込めてそう言った。

「その通りだ」

 その声はZとは違った。背後からするその声に先に反応したのはスズラカミだった。どこか聞き覚えがある声だと思った。


 スズラカミはマイクロチップハックを使用した。背後にいる対象の人物の脳内に入り、幻覚のエクスを見せる。一般的な人間はここで、自動歩行信号技術を使って攻撃を避けることを考えつく。

 だが、スズラカミが企業時代に暇つぶしにやっていた模擬戦闘ゲーム、ガン✖️ナイトでは先に相手を混乱させるのが必勝法だったのだ。この戦法でしくじった事は無かった。


 だが、その時多くの足跡が聞こえてきた。 

「ジョウトさんが言っていたところはあそこだ。確かに居たぞ」

 ジョウトがマイクロチップで呼びかけたのか、エンペラーハウスのメンバーが集まってきた。これでは隠れている意味はない。

「Z! こいつは俺がやる。お前は残りを頼む」

「スズラカミ、命令は…。まぁいい。そいつは一番強いぞ。気をつけろ」

 Zは最後にそう言って、エンペラーハウスの群れの中に、狩り人として飛び込んでいった。

 

 

「背後を取った敵に対して幻覚を見せるとはな。さっきのアオタよりは出来そうだ。実に興味深い」

「アオタ? あの軍警察のやつか」

「ああ、アオタは弱かった。お前は軍警察の仲間じゃ無いだろ。楽しませてくれよ」

「……知ったことか」

 スズラカミは手始めに自動歩行技術を起動し、ジョウトにピンを打った。だが、まだ動かず相手を観察し続ける。

 このジョウトとかいう男の喋り方、言葉選び。それらは何処かで聞いた声と似ている。

 嫌な予感を感じたスズラカミはジャミングを起動しジョウトにピンを打った。

 ジャミングは脳内のマイクロチップとIOTとの繋がりを妨害する電波を相手に流し込む技だ。

 故にジョウトがIOTにピンを打って、マイクロチップハックによって作り出されようとしていた幻覚を打ち破った。

 ジョウトは驚いたように目を見開く。スズラカミはその体や反応を逃さず、踏み込んだ。あらかじめピンを打っていたIOTのルートを辿って無意識に進んで行く。


 ジョウトは必死に考えていた。自分のマイクロチップハックを初手で見破った時点でスズラカミは只者ではないのは確定していた。なぜなら、今まで誰一人として見破った者はいなかったからだ。それはガン✖︎ナイトのゲーム回線を応用してピンを打っているからである。

 現実で破る手段を持っているのはガン✖︎ナイトの上位プレイヤーしかいない。だが、その上位プレイヤーはほとんどが引きこもりだと聞いている。

 ジョウトはスズラカミのピンをたどる。下手な小細工はやめだ。同じ動歩行信号技術で対抗するのが一番良い。

 スズラカミが移動したピンの後をジョウトは辿った。


 スズラカミはすぐについて来られている事に気づく。自動歩行技術をキャンセルする。

 スズラカミは振り向いた。ジョウトと向かい合う形になる。ナイフを取り出すとジョウトに切りつけた。

 ジョウトも同じタイミングでナイフを取り出す。目が合う。二つのナイフが火花を散らした。

 

 その瞬間、スズラカミの中にある記録と記憶が同時に稼働した。その二つは同じ終着点に進んでいく。

 その言動、性格、戦闘スタイルの全てを記録で遡った。それはすぐに見つかった。企業に勤めていた時、一番印象に残っていたゲーム友達。

 そうか、そうだったんだ。スズラカミはジョウトが一体誰に似ていたのか分かった。

 スズラカミは前蹴りでジョウトを吹き飛ばす。だが、当時にジョウトもスズラカミを前蹴りで吹き飛ばした。お互い勢いよく転んだ。

 スズラカミは膝をついて立ち上がる。自動歩行信号技術の移動ルートの証明でもある全てはピンを消した。

「お前、ジャガーか?」

 スズラカミはジョウトをかつての記録の中にあるジャガーの姿と重ねた。マイクロチップ内での整合率は99%を指し示している。

「そういうお前はガクだろ」

「やはりジャガーか」

「まさかゲーム友達と戦場で出くわすとは。しかも軍警察だと?」

「軍警察は違う。協力しているだけだ。俺の意思でな」

「……確かお前、デスエクスについてやたらと俺に聞いてたよな。まさか…」

「お前もやけに詳しかったなジャガー。エンペラーハウスのメンバーだったとは驚きだ。だが、今はもう関係ない」

 Zはそう言って再び刃物を構えた。ゾッとする様な殺気を放つ。ジョウト(ジャガー)は少したじろいだ。

「待てよ。ご存知の通り、デスエクスならエンペラーハウスも狙ってる。かつての友達だろ。俺たちと共に行動しないか?」

 ジョウトは手を広げて言った。

「俺は誰も信用していない。お前は俺の真の目的に気付いたのだろ?」

「マイクロチップによる予測だけだ。お前の脳を直接見ないと真実なんて見えやしないさ。さぁ俺たち共に来るんだ。ガク。いやスズラカミ」

「俺はこの世に絶望していた。現実を見たくないからガン✖︎ナイトに引きこもった。俺がデスエクスでこの世界を導く。その為に、ジャガー、お前は必要ない」

 スズラカミは自動歩行信号技術を起動し、ジョウト(ジャガー)に向かって再び刃物を向けた。

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