第14章 その男の名は 2
自分が負けると思ったことは無かった。生涯一度たりともである。だからこそ、軍警察特殊部隊と言う誰よりも危険な仕事をこなして来た。
今回もその一つである。アオタはそう思っていた。だが何かが違う。興奮が冷めやらない。
それはデスエクスという謎のマイクロチップを追っている為か。それとも目の前にいる自分と同じ戦闘狂に出会うと、直感したからだろうか。
どちらにせよ、目の前の男は次々と仲間の軍警察特殊部隊を殺害していく。仕事とはいえ、見知った顔の奴が死んでいく姿に流石にくるものがあった。
アオタはジョウト以外のエンペラーハウスのメンバーを自動歩行信号技術を使い、高速移動しながら倒していた。同時にジョウトの動きを伺っていた。隙を見てあいつを殺す。
俺以外で殺せるとしたら、Zかあのスズラカミとかいう協力者だけだろう。
ジョウトが銃を手に軍警察特殊部隊の一人の背後を取っているのがみえた。アオタからはちょうど背を向けた格好である。
アオタは銃を手にジョウトに狙いすました。強い敵でも背後は防ぎようがない。銃弾はジョウトの背後を捉えた。だが不可解なことが起こった。
ジョウトはゆらりと身体を揺らした。まるで後ろが見えているかのように、銃弾を避ける。ジョウトを貫くはずだった銃弾はアオタの仲間に当たった。そのまま、仲間は死んだ。
ジョウトはさらに驚く行動に出た。後ろ向きで背中に手を伸ばして拳銃をアオタに向けて来た。そこから正確に弾丸を撃つ。
しかし弾丸歯軌道が読みやすかった。アオタは余裕を持って避けた。
「後ろに目があるのかこいつ」
アオタは独り言を呟いた。
ジョウトはアオタのがいる方向に顔を半分だけ振り向いた。横顔は笑っていた。やっぱり似てるな。とアオタは思った。
「面白ぇ」
アオタは自動歩行信号技術を起動し、ジョウトとその周辺のIOT機器にピンを打った。銃がダメなら近づくだけだ。筋肉のリミッターを外し、腰からナイフを取り出した。
「こいよ」
ジョウトは微動だに動かず一言だけそう言った。
アオタはナイフを構えて、高速に移動した。ピンからピンに移動する。さらにナイフを宙に投げた。特殊部隊で使われるナイフはマイクロチップと接続できるようになっている。
ジョウトはこれに少し驚いて、ナイフに目をやった。その隙にアオタはジョウトの背後に周り拳銃を突きつけた。
「ナイフに気を取られただろ。犯罪者はバカだから騙される」
アオタは勝ち誇った。
「…フッ、バカなのはお前だぜ」
ジョウトはそう言って、アオタが以前に発報した場所の後ろにいる死体に目をやった。
アオタの視界が歪む。銃を突きつけていたはずのジョウトの姿が変わっていく。やがて全くの別人になった。それはアオタが拳銃を突きつけているのは同じ軍警察特殊部隊の仲間だった。
さらに驚くことにアオタの後ろに転がっていた死体が起き上がった。その死体はジョウトの姿に変わった。
「お前はもう何が真実か分からいだろう?」
「マイクロチップハックか……。いつの間に」
アオタは仲間に突きつけていた銃を下ろした。
「アオタさん……だ、大丈夫ですか?」
銃を突きつけられていた仲間はそう言って、ホッと胸を撫で下ろした。
「すまなんな」
アオタはそう言って謝った。
アオタは下手に動かなかったをその代わりに脳の記録を遡っていた。だが、直近の戦闘のどこにも侵入された形跡がない
「完璧なマイクロチップハック……」
「完璧なのはそれだけじゃないぜ。お前は楽しめそうだが、俺以下だ」
ジョウトは自動歩行信号技術を起動した。アオタにピンを刺す。
アオタは先手必勝と、銃をジョウトに向けて撃った。だがその瞬間にジョウトの姿が消えた。
ジョウトは一瞬のうちにアオタの背後に回り込むと、手刀で首の背後を叩いた。アオタは崩れ落ちた。
「はい、俺の勝ち。最後に教えといてやるよ。俺がやったマイクロハックは時間の錯誤。お前が撃った時には既に、前を向いて動き出していたって訳だ」
うつ伏せになった拳銃を突きつけ、勝ち誇ったようにジョウトは言った。
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