第14章 その男の名は 1
軍警察特殊部隊の移動用ドローンには
『全員外に出るぞ。絶対に奴らにデスエクスのパスワードを渡すな。抵抗するなら即殺せ』
Zはマイクロチップで部下全員と協力者として契約したスズラカミに伝えた。
移動用ドローンの扉から銃を持ち、防弾チョッキとヘルメットを被った特殊部隊が地面に降り立ち迅速に行動し始めた。既に全員が自動歩行信号を起動している。
スズラカミはその洗練された動きに少し敬畏を抱いた。軍警察がまともに掃討作戦を練れば自分一人では出せない集団の力とやらを発揮出来るのだろう。それはスズラカミが生きていく過程で捨てた力でもあった。
そんな考えを頭に張り巡らせているスズラカミとはよそに、特殊部隊とエンペラーハウスの戦闘は激しさを増していった。
『僧たちの姿が確認できない。そっちにも注意を向けていけ』
『了解』
戦闘好きのアオタが上がり気味に返事をした。
スズラカミはZとアオタ後ろをついて行った。エンペラーハウスのメンバー相手には逮捕という概念は存在せず、問答無用で殺害しながら進んだ。
いくらか進むと、マイクロチップ上の地図で言うところの
「みんな死んでるな。残念だな。これじゃあ情報が聞き出せないなぁ」
アドレナリンが出ているアオタが興奮気味に言った。
「帰ったら鎮静効果のあるエクスを見ろよ。アオタ」
Zはそう言って誡めた。
「脳をかち割られている。記録を抜き取られないようにする為だね……」
ホラがしゃがんで死体を観察しながらそう言った。
そんなホラの元に二つの影が近づいていた。
エンペラーハウスのメンバー二人は自動歩行信号技術を使っていた。素早い動きに軍警察特殊部隊ですら、反応が遅れた。
だが、スズラカミは違った。大等部時代に格闘技で日本一位になった、反射神経は並大抵のものではなかったのだ。
スズラカミも自動歩行信号技術を発動させ、ホラの元に間一髪で間に合った。タックルをかましたのだ。そのおかげで、エンペラーハウスのメンバーの二人は刃物をお互いに立てて死んでしまった。
スズラカミはそれに目もくれずなず、ホラを下ろした。
「ありがとうございます」
「それはいい、それより次はもっと大人数で来るぞ」
スズラカミは
その中央にいる顔に傷のある男(ジョウトの特徴を覚える)。エンペラーハウスではジョウトと呼ばれるその男が一人前に出た。
「ほう……今の二人を攻撃を避けるとはな」
まるで好敵手を見つけたかのようにジョウトはニヤついた。
「エンペラーハウス。お前らにパスワードは渡さんぞ」
Zは100人は超えるだろうエンペラーハウスのメンバーに語りかけた。
「我々にも目的がある。それよりも闇のオークションを無茶苦茶にしたのは、お前ら軍警察か。やるしかねぇな」
「何を言っても、犯罪者は即逮捕だ」
「へっ、お前ら俺が出会った中で最も良い面構えしてるな。楽しもうぜ。殺し合いをよ」
ジョウトはそう言って何やら、エンペラーハウスのメンバーにマイクロチップで語りかけた。その直後、軍警察特殊部隊に向かって自動歩行信号技術と銃撃でそれぞれ攻撃を開始した。
そこから約20分間。軍警察特殊部隊とエンペラーハウスの間には一心一体の攻防が続いていた。その戦闘範囲は不二僧院全体にまで及んでいる。
特にジョウトと言われる幹部の強さには軍警察特殊部隊ですら苦戦していた。アオタや他の軍警察特殊部隊のメンバーの多くがジョウト一人に足止めを喰らっている。
だがその隙をついて、スズラカミはZと共に本殿を目指していた。本殿にはサダヤスと言われる、不二僧院の長がいるはずだった。その男ならデスエクスについて何か知っているはずだと、事前の作戦で結論が出ている。
本殿を囲むように回廊が張られている。それはまるで、外の人間を拒むような物だった。ちらほらと見える僧の死体を横目にスズラカミとZは門の前で待ち構える、エンペラーハウスに目をやった。ざっと100人は超えている。もしかすると本殿の中にはさらにいるのかも知れない。
「一気に突破するぞ。スズラカミ」
「ああ、デスエクスは誰にも渡さん」
二人は意見が一致した。これは珍しいことである。
大等部時代から二人の意見はよく食い違っていた。ただ、Zがスズラカミを唯一の尊敬出来る人物だと思っていたこと。スズラカミがZを自分にはない物を持っていること。その二つが二人を結びつけていたのだ。
だから、大等部時代では、意見が一致していた時は逆に気持ち悪がった。だが、今回はなぜか二人とも違和感を感じない。
それが二人にとって吉と凶か。まだ誰もが知り得ない。
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