第13章 不二僧院の墓 2

 フラッシュバンの光りで真っ白い中、サダヤスは静かに倒れていった。周りを囲んでいた僧たちは立ちすくんだまま、動かない。

 ジョウト率いるエンペラーハウスのメンバーは銃を手に、頭には遮光ゴーグルを装着し、動きだしていた。どうやらテンオウの引き金が合図だったようだ。

 隠し持っていた銃を次々と発砲し、僧たちを倒していく。明るさが徐々に弱まりつつある中、血飛沫が影となって現れる。

 何百年と続く木の床に血が流れる。神聖なる僧院の内部を汚され、仲間を殺された僧たちは我に帰った。

「デスエクスを狙う不届き者がサダヤス様を殺害したぞー。全員でかかれぇ」

 不二僧院の幹部の僧であるキタマルの大声が聞こえた。

 既にフラッシュバンの光りは消失していた。光で動けなかった僧たちは、我に返って襲いかかってきた。

 

 弾丸が入り乱れ、自動歩行信号技術で身体能力が向上した者たちが疾走しながら武器を振り上げる。ジョウトはそんな物騒な僧たちをまるで、ダンサーがコンサートホールで踊るように倒していた。返り血は浴びるが体は一切傷つかない。幼い頃から戦いが好きだったジョウトにとって素人は武器を使っても素人だ。


 ジョウトは後ろで指示を出しているキタマルという男に目をつけた。奴を殺せば一気に指揮を弱められるだろう。

 マイクロチップハックを発動させ、キタマルの脳内にピンを打った。入り乱れる戦いの中の方が幻覚を見せやすい。

 キタマルは何も気づいていなのか、指揮を取り続けている。だが、そこには標的であるエンペラーハウスの人間は存在していない。見当違いなキタマルの指示に疑問を持つ僧たち。

 混乱した僧たちを凝視するジョウト。司令官と部隊。隊列を見出した人々の僅かなスキをついて、引き金を引いた。

 放たれた弾丸は僧と僧の間をすり抜けるように通って行った。キタマルはマイクロチップハックのせいで銃を向けられたことにすら気づかなかった。

 弾丸は空気を切り裂き、やがてキタマルの元に届いた。正確に心臓を貫く。

 

「キ、キタマル様ー」

「くそ、サダヤス様に続きキタマル様まで。もうおしまいだ……」

 僧たちは銃弾を受けて倒れたキタマルの姿を見て弱音を漏らした。いつしか、戦う気力を失った僧たちは、次々とエンペラーハウスのメンバーに狩られていった。

 不二僧院が落ちるのも時間の問題だった。エンペラーハウスのメンバーは常に戦闘に備えて鍛え上げられたプロだ。確実に仕事はこなす。

 ジョウトは僧たちの血まみれの死体が転がっている上を歩く。返り血を浴びたその姿は鬼神に近かった。

 やがて神拝殿しんはいでんの中に踏み入れ、サダヤスの前に立った。脳に刃物を入れ、中からマイクロチップを取り出す。

 ジョウトは背負っていた鞄から小型の機械を取り出した。そこのちょうど穴の空いている所に、サダヤスの脳内マイクロチップを差し込む。機械は光を放ち作動した。


 エンペラーハウスが企業内で独自に開発した超小型電気羊だ。未だ、試作段階でしか使用したことがない。しかし、デスエクスを軍警察より先に見つけなければならない状況ではそんなことに構っていられない。

 機械と自身のマイクロチップを繋いだジョウトは、すぐに解析に入った。周囲では僧たちを殺し切ったのか、部下たちが集まって来た。

 やがて、結果が出た。ジョウトはすぐにテンオウのマイクロチップに繋いだ。

「ボス、パスワードがある場所は神拝殿しんはいでんではありません。驚くことに、この僧院全体がパスワードになっています」

「どういうことだ?」

「この僧院の中で神という字が入った建造物。その中にある仏像の裏に刻まれてあるコードを、入り口から近い方から順番に記録に入れる。そうすると、マイクロチップ内で新たなアイコンが出現し、それを押すと…」

「頭の中にパスワードが浮かび上がるという方か」

「はい、さすがですねボス」

 ジョウトはテンオウの頭の回転の速さを褒めた。


 テンオウはジョウトの言葉に瞬発的に反応した。不二僧院の表門で待機していた部下に命令を出した。

「神と名の付く、建造物の銅像を調べろ。表門にいるやつが最初の道から順にスキャンしろ、俺も逆からいく。真ん中で落ち合うぞ。スキャンし終わった後に地図を見て、パスワードを並び変えればいい」

 テンオウはそう言って神拝殿しんはいでんの銅像の裏を調べ始めた。

 テンオウが銅像の裏を覗くと、何やら字が銅の表面が凸凹している。よく見ると、古代文字のようなものが刻まれていた。理解不能なその文字をテンオウは目からマイクロチップで記録した。

 すると、脳内で「一つ目の暗号です」と表示された。

 ようやく本物のデスエクスの第一段階に辿り着いたとテンオウは思った。何者かが複雑なルートを辿ってデスエクスを隠したのだ。

 テンオウはそこで少し安心していた。

 だが、それは束の間の安堵に過ぎなかった。不二僧院全土を揺るがす銃声が鳴り響いた。

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