第13章 不二僧院の墓 1
Z率いる軍警察のメンバーは全員が移動用ドローンに乗り移り、脱出した。
「これで幹部らしき人物は2人目だ」
Zはジップロックの中に入っている血まみれのマイクロチップを全員に見せた。
「あの女の頭から抜いてきたやつか…」
アオタはまじまじと見つめた。
「ホラ、これもすぐに解析してくれ」
「はい」
ホラはすぐにマイクロチップと電気羊を接続した。
「まさか、脳みそをエグって取り出したの?」
「そうだリナ。敵が多くて把握しきれない状態だったからな」
「相変わらずクレイジーね」
リナはエクスを起動した。脳内にハードロックが流れる。
電気羊によるマイクロチップ解析の結果は直ぐに出た。日本の山奥にある、存在が伏せられた僧院。その名は不二僧院だった。続いてマイクロチップから詳しいルートと不二僧院内の地図が見つかった。Z率いる軍警察特殊部隊は全員でそれを共有した。スズラカミの脳内マイクロチップにも入って来た。
「では、作戦を話し合おうか」
Zは直ぐに次の戦いに頭を切り替えた。
物音一つ聞こえない場所に1人の男が立っていた。墓地全体を覆う霧が男の姿を隠している。
ここ不二僧院の裏側は、墓地になっている。エンペラーハウスのボスであるテンオウは、一つ一つ墓をじっくりと見ては次の墓へと目線を移した。この僧院の墓地は日本が敗北した第二次世界大戦を裏から支えた政治家の名前が書かれている。
テンオウは一番奥まで進んでいった。まるで墓地全体を見渡すかのように立っている一際大きな墓。その前まで来ると立ち止まり、両の手のひらを合わせる。
「安らかに眠れ。我が親父」
テンオウの頬から涙がこぼれ落ちる。もう少しだ。もう少しでデスエクスを我が物にできる。戦争を知らない政治家。従うだけの国民。変えるのは俺だ。深い霧の中テンオウは誓った。
「テンオウ様、面会の話が通りましたぜ。
「よくやった、ジョウト。すぐに向かう」
マイクロチップ内で返答したテンオウは墓に背を向けた。霧の中、
回廊に囲まれた
神をかたどった銅像が大きく構えていた。その前に一人の坊主頭の男が地べたに座っていた。年は自分と同じぐらいだろうか。眉毛は全て白くなっている。だが、堂々とした佇まいが年齢を感じさせない。自分と似ていると思った。
テンオウは坊主頭の正面に座った。
「我の名はビンジョウマル・ザダヤス。この不二僧院の長であり、同時に神のお告げを伝える者だ」
「エンペラーハウスを統率しているテンオウだ」
「お主は先程、墓にいたということだが、お知り合いでも眠っていたのかな?」
「ええ、私の親父が墓には刻まれていましたね。ここにあるとは知っていたが、まさか我々の目的と重なるとは思わなかった」
「それは素晴らしい。不二僧院に刻まれているのは皆、影の英雄ばかり。お主も道を外さず、社会の為に身を削ることをお勧めする」
「それは、神のお告げか?」
「無論だ。社会を助け、掟に従う。さすれば救われる。不二僧院は神聖なる場所なのじゃ」
「では、神は“運命の定め”も受け入れたと?」
「神は人の行いを肯定する。それが社会の為ならな」
ビンジョウマル・ザダヤスはそう言うと立ち上がった。後ろにある銅像に手をかける。
テンオウは一切の身動きをせず、その動きを見つめ続けていた。
「そろそろ要件を話したらどうだ。テンオウとやら。我の頭にもマイクロチップが埋め込まれている。お主が社長を務めるエンペラーハウスがただの企業ではないことぐらい直ぐに検索できるぞ」
「ならばエンペラーハウスが、何を目的にここに来たのか分かるか?」
テンオウは少し語尾を強めた。
「……マイクロチップが何故、人々に埋め込まれたのか。その一つは犯罪を防止する為だった。ここはお主にとっては完全にアウェーだぞ」
「答えになってないな。率直に聞く。デスエクスのパスワードが不二僧院の何処かにあるはずだ。俺たちはその場所に向かいたい」
「悪いが客人。それだけは教えられない。パスワードは神によって封じられたのだ。お主ごときでは、神の許しを得ることは出来ない」
「ほう……、ならこうするのはどうだ」
テンオウは立ち上がって素早くビンジョウマル・ザダヤスのこめかみに銃を突きつけた。
「教えることなど何もないわ」
「ならば無理矢理にでも脳をかち割って、マイクロチップをハッキングするぞ」
テンオウの脅しに遠巻きに見ていた、不二僧院の僧たち走って向かって来た。
「何をしている。ザダヤスさんから離れろ」
僧たちは手に持っていた銃や刃物をテンオウに突きつけた。
「ジョウト、今だ。やれ」
テンオウはマイクロチップの無線を通じて、
ジョウトはテンオウの合図と共に、エンペラーハウス内部で開発されていたフラッシュバンを投げた。見事なコントロールで孤を描いて飛んでいく。そしてテンオウとサダヤスの間に落ちる。
フラッシュバンから発せられた光により、サダヤスや僧たちは視界を遮られ動きが止まった。
「粛清の時間だ」
テンオウは引き金を引いた。
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