第12章 悪の戦い 2
Zがエンペラーハウスと戦っている間、スズラカミは地下への階段を下って行った。後ろからアオタを含む軍警察が10名程ついて来る。途中でセキュリティのドアがあった。だが軍警察が手榴弾で破壊して進んだ。
「待て、お前ら」
《踊るAI》はそこにあった。エンペラーハウスの連中と主催者のツシマの手によって運び出されようとしていたのだ。
「おっと軍警察だろ。ここは政府非公式闇のオークションだ。邪魔するなよ」
そう言ってツシマは《踊るAI》に拳銃を向けた。
「こっちが本物だ。初めからここにいるエンペラーハウスに渡るようになる算段だったんだ。帰って貰おうか」
スズラカミはツシマが喋っている間にピンを打った。マイクロチップハックを起動させた。ツシマは目の前の景色が何も動いていないように錯覚させられた。
「しまった……ハッキングされた…」
「戦闘経験がない素人は大人しくおねんねしときな」
ツシマの周囲にいたエンペラーハウスのメンバー十名程度が武器を構えていた。
「俺たち、殺しのプロの出番だ」
エンペラーハウスのメンバーはスズラカミと軍警察に向かって一斉に射撃した。血飛沫を上げて倒れる。普通はそうだった。
「!」
だが、弾は全て貫通した。
「馬鹿な…既に我々もハッキングされていた言うのか?」
「どうだ、見えないだろ悪党どもが」
スズラカミがツシマに見える形でハッキングを仕掛けるのは囮だった。アオタを含む軍警察はその隙に、エンペラーハウスのメンバーそれぞれにピンを打った。マイクロチップの視覚をいじる。これは集団マイクロチップハックだ。
「クソ……グァァ」
エンペラーハウスの一人が倒れた。見えない場所から銃弾だけが飛んでくる。エンペラーハウスのメンバーは何もなす術がない。
ツシマは倒れていくエンペラーハウスのメンバーを横目に自動歩行信号技術を発動した。既に会場の外まで既に複数のピンを打ってある。この闇のオークションの主催者として捕まる訳にはいかない。《踊るAI》を強く握りしめ、エンペラーハウスの身体を盾にして移動を始めた。
スズラカミはいち早くツシマの行動に気づいた。自動歩行信号技術を止めるため、ツシマの脳内にジャミングを仕掛けた。ツシマがピンを打ったIOT器具達が突然動かなくなる。
当然、ツシマ自身の走るスピードも普通の人間のそれと変わらなくなった。
それでも、ツシマは止まらなかった。真っ直ぐに地上への非常階段の入り口を目指す。
スズラカミはツシマに銃口を向けた。
「諦めろ……そして俺の野望の為に散れ」
心臓に狙いを定め、引き金を引いた。ツシマは即死した。
スズラカミはツシマの手から離れた《踊るAI》を手に取った。額縁の裏には確かにデスエクスのIDが書かれている。スズラカミそれを脳内マイクロチップに瞬時に記録した。
「おい、もうやったのか?」
エンペラーハウスのメンバーを片づけたアオタがこちらに向かってきた。
「ああ、これがお前らの求めていた絵だ」
スズラカミはアオタに《踊るAI》を渡した。
「……どうやら、本物の様だな」
アオタは裏のIDを確認してそう言った。
他の軍警察のメンバーは既にツシマの脳内からマイクロチップを取り出す作業を行なっている。
『こっちも主導者を殺した。《踊るAI》を確保できたなら脱出だ。事件の処理は一般軍警察に任せよう』Zは言った。
『なら、もう外も片付けて良いよね』リナは答えた。
『直ぐにやってくれ、他のやつは支給されたヘルメットを被れ。電磁パルスが来るぞ』
闇オークション会場の外では激しい戦闘が繰り広げられていた。マフィアとエンペラーハウスはお互いにマイクロチップを駆使した攻撃(自動歩行信号技術、マイクロチップハック、ジャミング)を繰り出していた。そこに銃やらナイフやらが加わり、あたりには死体が転がっている。
リナは草むらに隠れて、バックから拳一つ分の玉を取り出した。それを思いっきり空高く投げる。既にヘルメットを被っていたリナはスイッチをマイクロチップ内で起動した。
玉は静かに強い光を放った。この玉は超小規模核爆発を起こし、電磁パルスを発生させる装置だ。
その場にいる、特殊なヘルメットを被っていない人々。そして全てのIOT機器が機能を停止した。いわゆる全てのネットが遮断されたのだ。
マフィアもエンペラーハウスも、闇のオークションの参加者も皆、脳内に埋め込まれたマイクロチップに頼り切っている。この時代の人間はもうマイクロチップ無しでは生きていけない体になっていた。13年前までは考えられないことだった。しかし、それは現実に起きた。
闇のオークション会場のあらゆる物、人は常時インターネットに繋がっている。故に大混乱が起こった。
「インターネット依存か……。ひどいものだな…」
スズラカミは右往左往する闇のオークション会場の人々の現状を憐れんだ。
「どんな悪党でも文明の利器に頼りすぎた。まぁ……これが政府がやりたかったことでもあるが」
近くにいたアオタが言った。
「軍警察は今のやり方の方がやりやすそうだな」
「俺たちはそのために生まれた組織だ」
アオタはそう言うと空を見上げた。移動用ドローンがロープを降ろしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます