第12章 悪の戦い 1

 中央に置いてある《踊るAI》を取りに行く為、Zは席を立った。オークションで会場の皆がスタンディングオベーションで迎えてくれた。

 司会者の側まで来ると握手を求められたが、Zはそれを拒否した。この司会者は闇の企業と繋がりがある。下手に近づいて何をされるか分からない。今はそれよりも《踊るAI》の何処かに隠されているデスエクスのIDを手に入れることの方が重要だ。

 Zは《踊るAI》を手で触る。特にこれといって特徴の無い絵だった。俺は司会者に言われた通りに持ち上げた。

「では、ゼディーさん。改めておめでとうございます。皆様も拍手をお願いします」

 司会者がそう言った途端に軽快な音楽が流れてオークション参加者から拍手の雨が沸き起こった。

 Zが絵を持ち上げた時、《踊るAI》の絵の額の裏側に何か線の様なものが出ているのが分かった。軍警察で爆弾処理の訓練を受けていたことを思い出した。この配線の仕方。軽量型だが威力のある電気で動くタイプだ。


 ふと、美術研究員のナオミ見ると、1人だけ拍手をせずに何やら脳内マイクロチップを使っているらしい様子が伺えた。危機感を感じたZは絵を天に向かって放り投げた。


 Zの突然の行動にオークション会場にいた全員があっけに取られた。だが、ミナミ(ナオミの本当の名前。エンペラーハウス所属)だけは舌打ちをして様子を眺めていた。それもそのはず、偽物の絵画に仕込んでいた爆弾を起動させた後だったからだ。

 ドオオオオオン

 大きな音を立てて偽物の絵画は爆発した。オークション会場の天井が吹き飛び一部から空が見える。

「軍警察だ。他に侵入している可能性もある。作戦実行だ」

 ミナミは各場所に待機させていた部下に連絡を入れた。その瞬間、オークション会場の共有システムに妨害電波が流れた。オークション会場の共有システムに入っていた人間が次々と倒れていく。


 軍警察特殊部隊とスズラカミは爆発が起きた瞬間に、オークション会場の共有システムを切断していた。

 Zは爆発が起きた後、すぐに軍警察特殊部隊の部下とスズラカミに指示を出した。

「ホラよ、状況はどうなっている?」

 Zは脳内マイクロチップを通して移動用ドローンに待機しているホラに聞いた。

「監視カメラをハッキングした限り、複数人が爆発のタイミングで地下に移動していく様子が確認出来ました」

「地下か」

「俺が行く」

 冷静なスズラカミの声が入った。

「おいおい、協力者の分際のくせに生意気じゃねぇのか。コイツは何するかわからねぇぞ」

「なら、他のメンバーは全員で地下に行け。俺はナオミを追う。リナはそこで待機だ」

「了解」


 オークション会場は今や大混乱に陥っていた。ミナミの妨害電波から逃れた司会陣や爆発が起きた直後に共有システムから切断していたオークションの密売人や一般客は逃げ惑っていた。

 オークションの外では警備していたマフィア2000人が、突然空から現れたエンペラーハウスのメンバーと戦っている。草むらに隠れているリナは、待機していて正解だったと改めて思った。それによって外での先頭に巻き込まれずに済んでいるからだ。


 オークション会場の中でも戦闘が起きている。密売人や一般客が流れ弾に当たって倒れていた。Zとその軍警察の部下がエンペラーハウスの組織数人を相手に乱戦していた。

「クソ、こんなに紛れ込んでいたとは…」

 飛んでくる銃弾を壁に隠れてやり過ごしたZは、先程から指示を飛ばしているナオミと言われていた女を睨んだ。恐らくリーダーだろう。Zは自動歩行信号技術を起動した。近くにある電球。IOTシステムが取り入れられており、ハッキングした。ピンを打ち、体のリミッターを外した。跳躍したZは一気にナオミの元まで飛んで行った。


 Zは着地すると拳銃を構えた。

「エンペラーハウスの一員だろ。無駄な抵抗をせず縄についてもらおうか」

「ちっ、軍警察どもが。いつまでもそっちのターンだと思うなよ」

「ミナミ様、我々も応戦します」

 エンペラーハウスの一団が自動歩行信号技術でやって来た。周りを取り囲みに銃口を向けた。

「本名はミナミというのか。お前」

「だったらなんだ」

「確認しただけだ」

 Zは自身を囲んでいるエンペラーハウス全員にピンを打った。マイクロチップハックを発動する。Zの姿が視界から消えた。幻覚用のエクスを脳内に流し込んだのだ。

「クソ……お前ら背中同士で固まれ」

 ミナミが指示を出す。だが、既に遅かった。あらゆる方向から銃弾が飛んでくる。

「マイクロチップハックと自動歩行信号技術の合わせ技だと?」

 エンペラーハウスの一員は次々と死体になっていった。ミナミも応戦するが全く姿が掴めない。

「お前で最後だ」

 Zは容赦なくミナミの身体に銃を連射した。血を吹いて倒れる。脳を傷つけてずに全員を倒せた。これだけのマイクロチップを回収出来ればエンペラーハウスの正体を随分と知れるだろう。後は移動用ドローンにどうやって会社するかだ。

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